紋切り型(もんきりがた)とは?読み方や言い換え方法を紹介
「紋切り型」は、読みづらさを生むため、なにかを説明するための実用的な文章では避けるのが望ましいといわれています。ただ中には『そもそも…紋切り型とは?』の時点で立ち止まっている人もいるかもしれません。
今回は、なぜ避けるのがいいといわれているのか・そもそもどのような意味なのか、「紋切り型」についてまとめていきます。
紋切り型(もんきりがた)とは?意味や読み方を解説
紋切り型とは、決まり切った表現で、使い古されて新鮮味のない言葉の総称です。
元々は、家紋や紋様などを同じ形に切り抜くための型を意味する言葉でした。「型どおり」の意味だったのが、「型にはまったつまらないこと・融通が利かないこと・ありきたりなこと」などを表す言葉として用いられるようになりました。
「常套句」や「ステレオタイプ(stereotype)」も同じ意味です。ステレオタイプは、文字を印刷・複製するときに使った鋳型のことです。元々の意味が似ていることから、「紋切り型」の英訳として使われるようになったといわれています。
なお「紋切型」や「紋切形」と表記がいくつかあるものの、いずれも読み方は「もんきりがた」です。本記事では「紋切り型」の表記で統一していきます。
紋切り型の例
・走馬灯のように
・嬉しい悲鳴
・ぬけるように白い肌
・足が棒になる
・銀世界
・肩を落とす
・胸をなで下ろす
・目頭が熱くなる
紋切り型の例をいくつか上に並べてみました。聞きなじみがある言葉も多いのではないでしょうか。実は、紋切り型とされる言葉に、明快な区別や定義はありません。中には、世の中の大半の言葉が紋切り型であるという人もいるぐらいです。慣用句・四字熟語・ことわざ・比喩表現など、多くの言葉が紋切り型だといえます。
構成や表現が紋切り型になっている場合もある
株本由太。33歳。東京都渋谷区出身。パジャマの上着をズボンにすっぽりインさせるこの男、只者ではない。
単語レベルはもちろん、文や文章のレベルで紋切り型に該当する場合もあります。「株本由太。33歳。東京都渋谷区出身」のような書き出し方は、1965年頃からある古びた表現だと『日本語の作文技術』(朝日新聞出版,本多勝一)で紹介されています。テレビの人物紹介などで使われがちで、見聞きする機会も多いかもしれません。
また続く「…この男、只者ではない」は、「…この男は」や「…この男が」が本来の姿でありながら、助詞「は/が」が省略された形です。助詞を省くこのような表現も紋切り型だと『日本語の作文技術』で指摘されています。紋切り型は、単語レベルの話だけでない点に注意しましょう。
紋切り型(もんきりがた)を言い換える方法
冒頭でも紹介したとおり、読みづらさを生むため、なにかを説明するための実用的な文章では紋切り型は避けるのが望ましいといわれています。書きながらでは気がつきにくいので、執筆後の校正段階で意識して修正するようにしましょう。どのように修正すればいいのかを解説します。
類語辞典で言い換え表現を探す
紋切り型が示すのと同じ意味の言葉で言い換える方法が考えられます。言い換えのときには「類語辞典」が便利です。意味が似ていて表記が違う言葉「類語」(類義語)をまとめた辞書のことです。類語辞典のネットサービスもあります。
たとえば「紋切り型」の類語を調べてみると、英訳として紹介した「ステレオタイプ」や、“すべて様子が同じであること”の意味から「画一的」「均質」「無個性」「ありきたり」などが出てきます。ほかの単語などとの組み合わせで、自然なものに言い換えればいいわけです。
ただ、類語で言い換える場合も、紋切り型を選んでしまえば同じことの繰り返しになります。それこそ、「紋切り型」を「ステレオタイプ」と言い換えても、二つとも使い古された言葉で新鮮味が生まれません。そのため本ブログでは、次に書く「具体的に書き起こす」の方をオススメしています。
なお、フランスの小説家「ギュスターヴ・フローベール」が書いた『紋切型辞典』という書物もあるようです。しかし当作は、作者が生活する中で見聞きした言葉を風刺的にまとめたものであり、いわゆる辞書・辞典として言い換え表現を探すのには適さないといえます。
紋切り型が意味する状態を具体的に書き起こす
「ズラーっ」と並んだ自転車。
「ズラーっ」のようなオノマトペ(擬声語)も、紋切り型の一つといわれています。自然現象の音をまねて作った言葉であり、正確さに欠け、現実の情景と描写が乖離しがちであるため、わかりやすさを優先して表現を調整した方がいい場合もあります。
わかりやすくするのにオススメなのが、状況を細かく書き起こす方法です。紋切り型によって修飾されている言葉(例文の場合は「並んだ」)の状態を、事実やデータを基に具体的に描写する方法です。たとえば、下のような文に修正できるでしょう。
幅10cmにも満たない間隔で敷き詰められた自転車。
ほかにもたとえば、函館の夜景をレポートする記事で「美しい夜景」と書きたくなるときがあるかもしれません。しかし「美しい」だけで簡単に終わってしまうと、数ある“美しい夜景”の中の一つで終わってしまい、何の変哲もない文になってしまいます。函館の夜景ならではの美しさが、その表現では伝えられないのです。
上の自転車の例文のように、現地に行って目視しないとわからない情報を取材し、状態を具体的に書くのが文章のオリジナリティにつながるといえます。
紋切り型(もんきりがた)はなぜ避けなければいけないのか
紋切り型を避けるのが望ましい理由は、「読者に意味が伝わらないから」に尽きるでしょう。数十年・数百年前に生まれた言葉も多く、何を喩えているのか・伝えたいのかが現代ではわかりにくくなっている場合があるのです。
「無神経な文章」として、『日本語の作文技術』では紋切り型の説明が行われています。書き手が使いたい表現が、読者にとっては無神経と受け取られかねないといいます。わからないのに筆者だけが盛り上がっている文章は、読後感の悪さを生んでしまうわけです。
紋切り型を言い換えずにそのまま使ってもいい場合もある
今回指摘している紋切り型への注意喚起は、なにかを説明するための実用的な文章文章で懸念したい点です。SNSやブログなど、個人の発信レベルでは気にし過ぎなくてもかまいません。個人の発信は、自身が満足するように書くのが魅力につながる場合もあるでしょう。
また広告のコピーなど、意味を伝えるよりも、目を引く・印象に残る方が優先される場合には、紋切り型が有効な場合もあります。たとえばオノマトペは、直感的で、キャッチーな印象を生むため、堅苦しさや説明っぽさが出ない利点があります。「紋切型は絶対に言い換えないと駄目」なわけではないため、文章の種類や目的によって適切な表現を考えるようにしましょう。
書き手が笑ってはいけない
紋切り型に限った話ではないものの、わかりにくさ・読みにくさにつながる点として「自分だけが笑っていてはいけない」点について最後に注意喚起をします。
2019年末に行われた『M-1グランプリ』で、芸人・ニューヨークの漫才を見たダウンタウンの松本人志氏が「ツッコミの人が笑いながら楽しんでる感じがそんなに好きじゃない」と酷評したのを覚えていないでしょうか。
同様の注意が文章作成でもいえると本ブログでは考えています。一流の落語家について語っている説明から、本多氏も同様の意見を持っていたと推測できます。
「おかしい」場面、つまり聴き手が笑う場面であればあるほど、落語家は真剣に、まじめ顔で演ずるということだ。観客が笑いころげるような舞台では、落語家は表情のどんな微細な部分においても、絶対に笑ってはならない。
『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版,第14版P268L14〜)
おもしろいやおかしいと判断するのは受け手であって、伝え手の感情を強いてはならないわけです。例示したお笑いの場合、受け手(観客)が笑うのを邪魔する要因に伝え手(芸人)自らがなってはダメという教訓が得られるでしょう。
紋切り型の場合は、「これはいい表現だ」と書き手だけ盛り上がっていて、なにを伝えたいのは読み手には伝わらない可能性があります。むしろ、『書き手の自己満足だな…』と読み手をしらけさせるかもしれません。
紋切り型(もんきりがた)を避けながら「わかりやすい・読みやすい」文章へ
紹介したとおり紋切り型には、文章をわかりにくくする可能性があります。古びた表現でないか注意しつつ、文章の種類や目的に合わせて、より効果的に言い換える工夫が求められます。書きたくなったときは冷静になって、紋切り型なのか・使っても問題ないかを考えるようにしましょう。
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