敬語の種類や書き方まとめ!ビジネスや原稿執筆での使い方もチェック
原稿制作でも・声による会話でも、正確な敬語を使える人は意外と少ないです。日常会話やビジネスの場で頻繁に・反射的に使っている敬語が誤っていないかを一緒に振り返ってみましょう。
敬語とは
敬語とは、人間関係や社会的な立場を考慮しながら、相手もしくは発信の受け手に対して敬意や配慮を示すための表現方法です。
敬語の種類
敬語の分け方として、尊敬語・謙譲語・丁寧語の三つを学校で習った人も多いのではないでしょうか。それぞれの特徴を紹介します。
敬語の種類(1):尊敬語
尊敬語は、上司や年長者など目上の相手の行動や存在を高め、相手への敬意を示す表現です。動作主(動作をする人)を敬う表現といえます。自分や身内以外が動作主になるのが特徴です。
敬語の種類(2):謙譲語
謙譲語は、自分や身内の行動や存在などを下げ、相手にへりくだって敬意を示す表現です。動作の受け手を敬う表現といえます。自分や身内が動作主になるのが特徴で、尊敬語と区別するときのポイントです。
また敬語を5種類に分ける考えもあります。5種類に分ける場合は、謙譲語はⅠとⅡに分けられます。
謙譲語Ⅰ
自分や身内の動作のうち、相手に対して行うものをへりくだって表現し、その動作の受け手を敬う場合。
上司にお祝いを差し上げる。
謙譲語Ⅱ
自分や身内の動作を丁重に表現し、聞き手・読み手を敬う場合。「丁重語」と呼ばれる場合もある。
ミーティングルールを使用いたします。
敬語の種類(3):丁寧語
丁寧語は、言葉のとおり丁寧な言葉づかいによって相手を敬う表現です。発信の受け手にやわらかい印象を与えられます。
敬語の書き方
敬語の書き方は、言い換え型と付け足し型に大別できます。付け足し型は、何を付け足すかで更に細かい分類が可能です。詳しく見ていきましょう。
単語を敬語表現に変える【言い換え型】
まずは言い換え型を紹介します。一般的な単語を敬語表現に変えて、尊敬語や謙譲語として敬意を示す方法です。よく使われる単語の例をまとめてみました。
一般表現 | 尊敬語 | 謙譲語 |
言う/話す | おっしゃる | 申し上げる 申す |
する | なさる | いたす |
いる | いらっしゃる おいでになる | おる |
行く/来る | いらっしゃる おいでになる | 参る 伺う |
食べる | 召し上がる | いただく |
与える/やる | くださる | 差し上げる |
もらう | お受け取りになる | いただく 頂戴する |
聞く | お聞きになる | 伺う 承る 拝聴する |
見る | ご覧になる | 拝見する |
会う | お会いになる | お目にかかる |
思う | お思いになる | 存ずる 存じる |
接頭語・接尾語を付ける【付け足し型】
つづいて、付け足し型について以下でまとめていきます。
まずは、接頭語や接尾語を付けて敬語を作る方法を確認しましょう。下にまとめたような接頭語や接尾語を単語に足して敬意を表現する方法です。尊敬語・謙譲語・丁寧語それぞれで該当する単語があります。太字にしてある字が敬語の接頭語と接尾語です。
接頭語 | 接尾語 | |
尊敬語 | ご夫婦・お住まい・お美しい・御社・貴殿・令嬢・高説 | おばさま・高木様・中井さん・田島殿・弟さん |
謙譲語 | 小生・小社・弊社・愚息・愚弟・粗品・拙著・拙宅 | 私ども・手前ども |
丁寧語 (別名「美化語」:ものごとを美しくやわらかく伝えるための表現) | お菓子・おしぼり・お皿・ご本・ご馳走・ご近所 |
なお同じ「お」「ご」+名詞の形でも、内容によって尊敬語か謙譲語かが違う場合があります。
お話を伺います。
→「話す」の動作主は相手→「お話」は尊敬語
お見舞いに伺います。
→「見舞う」の動作主は自分→「お見舞い」は謙譲語
接頭語の付け過ぎに注意
接頭語を付けると、かえって読みにくくなる・聞き苦しくなる場合もあります。たとえば下記のような単語には接頭語を付けるのは避けましょう。付け過ぎにも注意してください。
外来語 | コーヒー・テレビ |
動植物 | 犬・うさぎ・バラ |
公的なものの名称 | 電車・公園 |
「あ」「お」で始まる言葉 | 頭・応援歌 |
自然現象 | 地震・雷・風 |
手紙の宛名に様や御中を付ける場合
尊敬語の接尾語として「様」を紹介しましたが、手紙の宛名で「様」を書くべきか・「御中」にすべきか悩んだ経験がある人もいるのではないでしょうか。
個人に対しては「様」・組織や団体に対しては「御中」を使うのが一般的です。役職名など使って問題ないものもあります。くわえて手紙の宛名は、身内や親しい人に対する場合でも敬称を付けましょう。
※敬称の例
様 | 相手が個人の場合に使う(社長・部長など役職を書いても問題ない) |
御中 | 組織や団体全体など、相手が個人ではない場合に使える |
殿 | 目上の人から目下の人に使われる場合もある(目上の人に対しては使わない) |
君 | ごく親しい人か、目下の人に対してなら使える |
先生 | 相手が先生ならよい(上司には使わない) |
宛 | 自分から相手に送付する場合 |
※敬称に関する注意点
- 「様」と「御中」は一緒に使わない(宛名に組織や団体の名前を入れたとしても、個人宛の場合は「様」だけでOK)
- 最初から「〇〇 行」や「〇〇 宛」と書かれている場合は、「行」や「宛」を二重線で消して、組織や団体なら「御中」・個人なら「様」を記載し直す。返信用ハガキなどを送る場合は、自分の名前の後に「宛」を付けておく。
- 「各位」には「様」や「皆様」の意味が含まれているため、基本的には併用しない。「お客様各位」や「お得意様各位」は例外的に使用が認められている。
接頭語「お/ご」や特定の動詞を付ける【付け足し型】
接頭語の「お/ご」だけでなく、特定の動詞も付け足して敬語を作る方法もあります。該当するものを下にまとめてみました。
※尊敬語の場合
敬意 | |
〜される | 小 |
お/ご〜になる、お/ご〜になさる | 中 |
お/ご〜にくださる | 大 |
※謙譲語語の場合
敬意 | |
お/ご〜する、お/ご〜いたす | 小 |
お/ご〜申し上げる、お/ご〜願う 〜させていただく、〜(し)ていただく | 中 |
お/ご〜いただく、お/ご〜にあずかる | 大 |
なお「お」と「ご」の使い分けは、和語もしくは訓読みの言葉に付くなら「お」、漢語もしくは音読みの言葉なら「ご」を使うのが基本です(「お元気」など一部例外もあります)。
お話しする お伝えする
ご相談する ご連絡する
助動詞を付ける(いわゆる過去形にする)【付け足し型】
尊敬の意味を示す助動詞「れる/られる」を動作や状態を表す動詞に足して、敬語を作る方法もあります。作れるのは尊敬語なので、その動作主を敬う表現です。
先生が来る。 → 先生が来られる。
また諸説あるものとして、いわゆる過去形の形で敬意を示す方法も知られています。たとえばレストランで注文を聞く際に、「よろしかったでしょうか?」と、いわゆる過去形の形にして丁寧さを演出する方法です。
過去の内容を確認する場合はともかく、注文が以上でいい・悪いが現在の話の場合は上の表現を“ふさわしくない・敬語ではない”とする意見もあります。
ただ、助動詞「た」には過去以外にも多くの意味が存在します。「よろしかったでしょうか?」の場合は、「た」は婉曲や確認の助動詞であり、あえて回りくどく表現して角が立たないことを狙った表現として肯定する意見もあるのです。
敬語に詳しい同志社女子大学の森山由紀子教授によると「以上でよろしいでしょうか」が相手の判断を確認する表現なのに対して、「よろしかったでしょうか」は「(あなたの判断はもう聞いたはずだが)私の認識はこれで間違いないか」と自分側の事柄を確認する表現で、この表現の背景には相手への配慮がある。「よろしかったでしょうか」を「よろしいでしょうか」の誤りと断じることはできず、相手に直接YES・NOを迫るのを避けるという意味で「聞き手への気配りによって生じた表現」なのだという。
『「よろしかったでしょうか」 実は正しいバイト敬語』(日本経済新聞,2015年2月14日)
なお英語でも、助動詞を過去形にして丁寧さを表現できる点を勉強した人がいるかもしれません。時制を現在から過去にずらして“距離”を作り、相手・受け手への敬意を示す表現といわれています。関連性があるかは不明ではあるものの、“距離”を作って敬意を示す考え方は日本語にもあります。
尊敬語を使う心理的な動機としては,[中略]「その人物に一定の距離を置いて述べようとする場合」など,様々な場合がありますが,いずれにしても,尊敬語を使う以上,その人物を言葉の上で高く位置付けて述べることになります。以上のような様々な場合を通じて,「言葉の上で高く位置付けて述べる」という共通の特徴をとらえる表現として,ここでは「立てる」を用いることにします。
『第二話「敬語の基本」理解度チェックの解答』(文化庁HP)
敬語変換サービスを使う
最近では、文章を入れれば自動で敬語に変換してくれるネットサービスも存在します。ライターの皆さんにはがんばって自分で書いてほしいところですが、敬語の使い方に自信がない場合や、プレゼンなどで失敗できない場合には便利かもしれません。
ビジネスや原稿執筆で敬語はどのように使うべきか
つづいて、ビジネスや原稿執筆で、敬語をどのように使えばいいかを紹介します。結論からいうと、敬語表現は冗長さのもととなるため、できるだけシンプルにする(可能ならば使わない)ことをおすすめします。敬語の使い方に関するほかの点も併せてチェックしていきましょう。
冗長性のもとなので、使うならできるだけシンプルに
敬語を使うと、文字数が増える場合が多く、冗長的になりやすいです。冗長的になると、文がわかりにくくなります。くわえて冒頭で紹介したとおり、敬語を正しく使うのは難しいです。
そのため本ブログでは、敬語表現は最低限しか使わない・無理して使わないことをおすすめしています。むしろ本記事も、丁寧語の「です/ます」を末尾に使っていたり、接頭語をいくつか使っていたりするぐらいで、敬語らしい敬語をほぼ使っていないといえるでしょう。
敬語を足し始めると際限なく付けられるため、足した分だけ文字数が増えて読むのにエネルギーが必要になるためなどが理由に挙げられます。敬語を最低限しか使っていない本記事も、ここまで読んでみて「ここは私をバカにしている」と思う表現はなかったのではないでしょうか。むしろ敬語にする・しないよりも、失礼のない内容の言葉を選ぶ方が重要だと本ブログでは考えています。
極端な例を挙げてみましょう。敬語を正しく使ったとしても、「貴殿はおバカでいらっしゃいますね」と書いたとして、相手や発信の受け手に配慮している文といえるでしょうか。そのため、そもそも失礼な内容を書かないことの方が何倍も大事であるとお伝えしたいのです。
二重敬語は避ける
二重敬語とは、尊敬語+尊敬語もしくは謙譲語+謙譲語のように、同じ種類の敬語を二重で書くことをいいます。「過剰敬語」といわれる場合もあるほど、避けるべきとされている表現です。たとえば下記のような表現が該当します。
ご注文を承りました。
→謙譲語「ご〜する」+謙譲語「承る」
社長がおっしゃられた。
→尊敬語「おっしゃる」+尊敬の助動詞「られる
理由は諸説あり、過剰な敬語で相手に失礼な印象を与えかねない点や、回りくどくなって真意が伝わりにくい点などが指摘されています。
古文の勉強で知っている人もいるかと思いますが、二重敬語は神様や天皇に対して使う表現とされてきました(「最高敬語」と呼ぶ場合もあります)。そのため神様や天皇ではない人には使わないルールが引き継がれて「一般的には避けるべき」となったのかもしれません。
なお敬語は3種類あると紹介しました。そのうち別の種類を組み合わせる、尊敬語+丁寧語や謙譲語+丁寧語の表現はよく使われます。
先生はもう帰宅なさいました。
→動作主「先生」への敬意を示す尊敬語「なさい」+聞き手への敬意を示す丁寧語「まし」
あなたについての話を伺いました。
→自分をへりくだって動作主「あなた」を敬う「伺い」+聞き手への敬意を示す丁寧語「まし」
形容詞の原形+です
形容詞を敬語にする際には、「です」を付けるだけで十分です。たとえば、「美しい」は「美しいです」でかまいません。
ただ、ライター界隈で議論される点であり、ベテランの編集者が嫌う書き方ともいわれています。理由は、文法的には間違いだからです。「美しい」の場合、文法的には「美しうございます」が厳密にいえば正しいです。
しかし「形容詞の原形+です」は、すでに広く使われています。『日本語の作文技術』でも下記のように紹介されています。
事実、戦後の国語審議会が提出した『これからの敬語』では、形容詞の原形にデスをつけるこのような言い方(「小さいです」など)も許容範囲に入れている(金田一春彦『新日本語論』一四〇ページ)。
「日本語の作文技術」(本多勝一,朝日新聞出版,第14版P283)
詳しく調べてみると、“戦後の国語審議会”は1952(昭和27)年に開催されたもののようです。つまり、文法的には間違いではあるものの、(少なくとも70年以上前からすでに) 敬語として許容されている表現といえます。
自分や身内に対して敬語を使わない
自分や身内に対して敬語を使うのは避けましょう。目上の人であっても、身内ならば、外部の人に対しては謙譲語を使うのが望ましいです。
× お父さんがご覧になりました。
↓
第三者に対して伝える場合は、謙譲語を使う+身内に敬称は付けない
↓
〇 父が拝見しました。
なお第三者がいない場合は、身内でも目上の人には敬語を使ってかまいません。身内であっても尊敬語を使う場面があるのです。
×社長から、話してよ。
↓
〇社長から、お話しください。
敬語よりも、わかりやすさや意味内容を意識しよう
敬語の正しい使い方を身に付けられれば、ビジネスや日常生活において円滑なコミュニケーションが図れるでしょう。
ただ紹介したとおり、ライターとして原稿を書く上では、正しい敬語表現よりもわかりやすさや意味内容を意識することを本ブログではおすすめしています。むしろ敬語を足そうとして、間違った記述や赤入れがされる機会も多いです。
正しい敬語の使い方を押さえつつ、なぜ敬語を使わないのかを依頼主や編集者に説明できるぐらいのライターになれるのがいいのかもしれません。
また上で過去形の話をしました。過去形については別記事で詳しくまとめているので、併せて読んでみてください。
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