文章をわかりやすくする書き方!言葉を並べるときに意識したい4つの原則
文を書くとき、一つの言葉にいくつも修飾語を並べてはいないでしょうか。詳しく伝えようとすればするほど、修飾語が多くなりがちな人がいます。しかし修飾語が多いと、かえって読みにくくなりかねません。内容を詳しく伝えながら、わかりやすい文章を書くための言葉の並べ方を考察しましょう。
【注釈】
修飾と被修飾の関係だけに着目しやすいように、広い意味の「かかる文節」(「うける文節」の対)を本記事では「修飾語」と記述しています。
文章をわかりやすくする書き方の原則(言葉の並べ方)【1】:クローズを先にし、フレーズをあとに
文章をわかりやすくするために、言葉の並べ方に関する四つの原則を今回紹介したいと思います。一つ目が「クローズを先にし、フレーズをあとに」です。
「クローズ」と「フレーズ」とは
クローズとフレーズについてまず説明します。
クローズ 1個以上の述語を含む連文節。英文法でいう「節」 (例) 縫い目の入った (「入った」が述語。) フレーズ 述語を含まない文節(文の最小単位)。英文法でいう「句」 (例) 赤い、薄手の
それぞれ、英文法で用いられる「句」と「節」に近いものとして解釈してもらうとよいかもしれません。『日本語の作文技術』(本多勝一、朝日新聞出版)では「節」と「句」で説明されているものの、一般的な日本語文法や国文法における「句」や「節」と意味合いが異なっており、混同を避けるために「クローズ」と「フレーズ」を今回は使って説明を進める点を念頭に置いてもらえるとありがたいです。
「クローズを先にし、フレーズをあとに」を例文で解説
本題に入りましょう。
・赤い布。
・縫い目の入った布。
・厚手の布。
「布」に対して異なる修飾語がかかる構造の文を三つ作ってみました。つづいて、三つをまとめて一文にしてみましょう。
まずは上から順に修飾語を並べてみます。
赤い縫い目の入った厚手の布。
上のようにまとめると、“布に入った縫い目が赤い”と解釈した人がいるのではないでしょうか。
では、下から順に並べた文も見てみましょう。
厚手の縫い目の入った赤い布。
今度は、“布に入った縫い目が厚い”ように感じたかもしれません。
一度、三つの修飾語を使って作れる文のパターンをすべて列挙してみましょう。
[A]赤い縫い目の入った厚手の布。 [B]厚手の縫い目の入った赤い布。 [C]赤い厚手の縫い目の入った布。 [D]縫い目の入った赤い厚手の布。 [E]縫い目の入った厚手の赤い布。 [F]厚手の赤い縫い目の入った布。
以上の6パターンが考えられます。
つづいて、誤解しやすい・読みにくい文を6パターンの中から選んでみてください。先に指摘した[A]・[B]、そして[C]・[F]が挙げられるのではないでしょうか。[C]・[F]ともに、「布」ではなく、「縫い目」を「赤い」か「厚手の」が修飾しているように読めてしまいます。残った[D]と[E]は、誤解が生まれにくいでしょう(“ない”といってもいいかもしれない)。[D]と[E]の共通点およびほかの四つとの違いを考えると、「クローズを先に、フレーズをあとに」の原則が導けるわけです。
・[D]と[E]の共通点=クローズ(「縫い目の入った」)が文頭にある ⇅ ・他の四つとの違い=クローズが文頭にない ※他の四つの共通点=クローズ以外(単語「赤い」・フレーズ「厚手の」)が文頭にある ↓ クローズを先に、フレーズをあとに
文章をわかりやすくする書き方の原則(言葉の並べ方)【2】:長い修飾語を前に、短い修飾語を後に
修飾語を複数書くとき、文字数や語数の多さで長いものと短いものが出てくるでしょう。そこで意識したいのが「長い修飾語を前に、短い修飾語を後に」です。
「長い修飾語を前に、短い修飾語を後に」を例文で解説
AがBをCに紹介した。
「Aが」「Bを」「Cに」の三つの修飾語が述語「紹介した」にかかっている文を用意しました。三つの修飾語は、いずれも二文字のフレーズで長さの差がなく、そのまま読んでも意味が取りにくいとは感じないでしょう。
しかし、BとCに下記のような修飾語が付いて長くなったらいかがでしょうか。
私が涙を流すほど大好きなB
私の恋人C
「Aが」「Bを」「Cに」の三つの並べ方として考えられるすべてのパターンを挙げてみましょう。
[あ]Aが私が涙を流すほど大好きなBを私の恋人Cに紹介した。 [い]Aが私の恋人Cに私が涙を流すほど大好きなBを紹介した。 [う]私が涙を流すほど大好きなBをAが私の恋人Cに紹介した。 [え]私が涙を流すほど大好きなBを私の恋人CにAが紹介した。 [お]私の恋人CにAが私が涙を流すほど大好きなBを紹介した。 [か]私の恋人Cに私が涙を流すほど大好きなBをAが紹介した。
わかりやすい・読みやすいのは[え]ではないでしょうか。そのほか(特に[あ]・[い]・[お])は逆に、わかりにくい・読みにくいと感じたでしょう。
[あ]【Aが】【私が涙を流すほど大好きなBを】【私の恋人Cに】紹介した。 [い]【Aが】【私の恋人Cに】【私が涙を流すほど大好きなBを】紹介した。 [う]【私が涙を流すほど大好きなBを】【Aが】【私の恋人Cに】紹介した。 [え]【私が涙を流すほど大好きなBを】【私の恋人Cに】【Aが】紹介した。 [お]【私の恋人Cに】【Aが】【私が涙を流すほど大好きなBを】紹介した。 [か]【私の恋人Cに】【私が涙を流すほど大好きなBを】【Aが】紹介した。
わかりやすさ・わかりにくさを分析するために、それぞれにかかる修飾語も一緒にB・C(・A)に関するまとまりを「【】」で区切ってみまし0た。
わかりやすいとした[え]は、原則【2】として指摘したとおり、修飾語が長いものから並んでいます。ほかの文は、短い修飾語が先に・途中に書かれているものばかりです。短い「Aが」が特に厄介で、BやCにかかる修飾語の一部であるかのように読めたのではないでしょうか。それを避ける方法として原則【2】が有効なのです(なお[え]には、原則【1】も当てはまっている点に着目してみましょう)。
秋空が染まる紅葉に鮮やかな色を与えた。
もう一つ例文を見てみましょう。「が」「を」「に」の格助詞を使ったフレーズ「秋空が」「染まる紅葉に」「鮮やかな色を」によって述語「与える」が修飾されている文です。
さきほどと同様に、修飾語の順番を変えて【】を補い、わかりやすさを比べてみます。
[ア]【秋空が】【染まる紅葉に】【鮮やかな色を】与えた。 [イ]【秋空が】【鮮やかな色を】【染まる紅葉に】与えた。 [ウ]【染まる紅葉に】【秋空が】【鮮やかな色を】与えた。 [エ]【染まる紅葉に】【鮮やかな色を】【秋空が】与えた。 [オ]【鮮やかな色を】【秋空が】【染まる紅葉に】与えた。 [カ]【鮮やかな色を】【染まる紅葉に】【秋空が】与えた。
六つを比較すると、[エ]や[カ]が読みやすく感じないでしょうか。
原則【2】に従って[エ]と[カ]が書かれているのはいうまでもありません。[ア]や[オ]は、「秋空が」と「染まる」がひとまとまりのように誤解しやすいでしょう([イ]や[ウ]は、わかりやすくもなくわかりにくくもない程度ではないでしょうか)。
なお[エ]と[カ]でどちらがわかりやすいかを考えたとき、[エ]と答える人が多いのかもしれません。[エ]がいいというより、「色を」と「染まる」がつながるように読めてしまい、[カ]が劣って見えたのが理由だと考えられます。この点は原則【4】で考察を深めたいと思います。
格助詞の違いによる並び替えは検討しなくてもOK
例文を読んで、修飾語の長さではなく、格助詞の種類(フレーズの役割)によって並び替えをする必要がないか気になった人がいるかもしれません。ただ、その心配は不要です。
AがBをCに紹介した。
上の文に使われている三つの格助詞「が」「を」「に」の呼び方は、下のとおりです(言語学者・三上章氏の呼称に従います)。
Aが…主格 Bを…対格 Cに…方向格
いずれも「紹介した」にかかる修飾語(補足語)で、どれが先でも文法的には問題ありません。すべて対等です。
ではわかりやすさへの影響はあるだろうか。述語「紹介した」に修飾語三つがかかるパターンをすべて書き出してみましょう。
[α]AがBをCに紹介した。 [β]AがCにBを紹介した。 [γ]BをAがCに紹介した。 [δ]BをCにAが紹介した。 [ε]CにAがBを紹介した。 [ζ]CにBをAが紹介した。
六つの文が書けました。読んでもらえば、修飾語の順序を変えても、文の意味が変わらない点がわかるかと思います。
つまり付属物である修飾語は、順序も自由であり、格助詞の違いによってわかりやすさに差は出ないわけです。
文章をわかりやすくする書き方の原則(言葉の並べ方)【3】:大状況から小状況へ、重大なものから重大でないものへ
つづく原則【3】は「大状況から小状況へ、重大なものから重大でないものへ」です。
上の修飾語を並べ替えて文を作ってみましょう。原則【1】【2】の説明と同様に、考えられるすべてのパターンを挙げ、修飾語のまとまりは【】で区切りました。
[a]【小さな点となって】【太郎が乗ってきた豪華客船が】【東京湾のはるか沖に】消えていった。 [b]【小さな点となって】【東京湾のはるか沖に】【太郎が乗ってきた豪華客船が】消えていった。 [c]【東京湾のはるか沖に】【小さな点となって】【太郎が乗ってきた豪華客船が】消えていった。 [d]【東京湾のはるか沖に】【太郎が乗ってきた豪華客船が】【小さな点となって】消えていった。 [e]【太郎が乗ってきた豪華客船が】【小さな点となって】【東京湾のはるか沖に】消えていった。 [f]【太郎が乗ってきた豪華客船が】【東京湾のはるか沖に】【小さな点となって】消えていった。
6パターンのうち、[d]がわかりやすい・読みやすいのではないでしょうか。
原則【3】では、言葉が意味する内容に着目します。三つの修飾語が意味する内容を“状況の大きさ”で比較してみましょう。すると下記のような違いが指摘できます。
大:東京湾のはるか沖に
中:太郎が乗ってきた豪華客船が
小:小さな点となって
“状況の大きさ”を比較するときに「東京湾」「豪華客船」「小さな点」に目がいったのではないでしょうか。そして状況が大きいものから小さいものへと並べたのが[d]です。
主観的なので人による差はあるものの、物語を読み聞きするときに、時間や場所などの大枠の設定を知った上で、登場人物や場面などの細かい設定が出てきた方が理解しやすいのではないでしょうか。同じ原理で、修飾語を並べようというのが原則【3】なのです。
なお[e]や[f]も、原則【2】に従って書かれており、問題なく解釈できるでしょう。問題は[a][b][c]です。「小さな点となって」のあとに「太郎が乗ってきた豪華客船が」が並んでいるため、豪華客船でなく、太郎が小さな点となったようにそれぞれ読めてしまいます。「小さな点となって」は“クローズではない言葉”(いわゆる連用修飾節)、「太郎が乗ってきた豪華客船が」はクローズであるため、原則【1】に反しているといえるでしょう。
文章をわかりやすくする書き方の原則(言葉の並べ方)【4】:親和性の強弱によって順序を替える
最後の原則【4】は、「親和性の強弱によって順序を替える」です。
重い現場の空気が凍える冬の寒さに拍車をかけた。
上の例文は下のような構造をしています。
修飾語の順序を原則【1】〜【3】を用いて考えてみましょう。
原則【1】:どちらもクローズではなく、当てはめられない。 原則【2】:文字の長さに大差はない。 原則【3】:人によって解釈が分かれそうだが、状況の大小に明らかな差はないはずだ。
原則【1】〜【3】が適用できず、複数の修飾語で順序の良し悪しに大差が付けられない場合が存在します。上の例文がまさにそれです。「空気が凍える……」と読んでしまい、わかりにくいとおそらく感じたのではないでしょうか。
この場合の「空気」は、心理状態を表す言葉で、「雰囲気/様子/ムード」の意味です。しかし親和性が高い「凍える」が並んで、物理的な肌寒さを表す「大気/天候/気候」の意味で解釈する余地が生まれてしまっています。
単語同士の親和性を考えてみましょう。上の「親和領域」は、単語同士の意味やイメージがどの程度結びつくかを示すものと解釈してみてください。すると、「凍える」と「冬」が直接つなげられるのはもちろん、「空気」と「凍える」もつなげられると考えられます。つまり親和性が強い。これが今回の問題なのです。
つづいて「空気」「凍える」「冬」の親和性を図でまとめてみました。上の図で三つの言葉が交わる親和領域が、文書のわかりにくさ(混乱度)につながると考えてみてください。
「空気」と「凍える」の親和領域があるために、「冬」と「凍える」の親和領域に割り込んで、関係性(「混乱度」とした領域)を生んでしまっています。このように親和性の強い単語が並ぶと、いくら前後の文脈があっても、わかりにくさ・読みにくさを払しょくするには工夫が必要です。
以上を踏まえ、下記の順番で修飾語を並べた方がわかりやすい・読みやすいと考えられます。
凍える冬の寒さに重い現場の空気が拍車をかけた。
「空気」と「凍える」という親和性が高い語を遠ざけただけで、わかりやすさ・読みやすさが向上したのではないでしょうか。ただ単に書いているだけでは混乱度には気づきにくいです。書いたあとの推敲の段階で、原則【4】はチェックしましょう。
文章をわかりやすくするために、最も重要な原則は?
わかりやすい文章を書くために知っておきたい言葉の並べ方について四つの原則を今回考察しました。最後に、『日本語の作文技術』にもある、四つの優先順位を紹介します。数字の順番のままですが、下記の順で優先するのをオススメしたいです。
原則【1】クローズを先に、フレーズをあとに
原則【2】長い修飾語を先に、短いものをあとに
原則【3】大状況から小状況へ、重大なものから重大でないものへ
原則【4】親和性の強弱によって順序を替える
四つのうち特に重要なのは原則【1】・【2】で、両社はいずれも同じぐらい重要です。原則【3】の説明で使ったように、原則【3】もしくは【4】で考える以前に、原則【1】・【2】に従って執筆していれば、わかりやすい文が結果的に書けている場合もあります。もちろん原則【4】の説明で考察したように、原則が当てはめられない文も出てくるかもしれません。今回の原則を頭に入れつつ、ケースバイケースで考えるようにしていきましょう。
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