漢字・ひらがな・カタカナ、どれがいい?常用漢字・当て字・補助動詞・形式名詞・同音異義語など、表記の注意点まとめ

漢字・ひらがな・カタカナ、どれがいい?常用漢字・当て字・補助動詞・形式名詞・同音異義語など、表記の注意点まとめ

漢字・ひらがな・カタカナ、どのように使い分けていますか? どれを使うか、迷う場合もあるでしょう。今回は、文章をわかりやすく書くための漢字・ひらがな・カタカナの使い方を考察していきます。

漢字ではなく、ひらがなで書くのが望ましい言葉の例

まず、漢字ではなくひらがな書きが望ましい言葉の一例をまとめてみました。漢字とひらがなのどちらがいいかすぐにでも確認したい人は参考にしてみてください。

漢字ひらがな
常用外漢字
何時
好い
可愛い
此方
沢山
素敵
其れ
無駄
あめ
いつ
いい
かわいい
こちら
たくさん
すてき
それ
むだ
形式名詞


通り
こと
ところ
もの
とおり
接続詞或いは
更に

拠って
あるいは
さらに
なお
よって
補助動詞下さい
行く
頂く
居る
見る
ください
いく
いただく
いる
みる
一部の動詞有る/在る
出来る
分かる/解る/判る
ある
できる
わかる
副助詞



くらい
ころ
まで
など
ほど
副詞余りに
一旦
既に
大変
僅か
あまりに
いったん
すでに
たいへん
わずか

漢字・ひらがな・カタカナを使い分けるときの注意点

漢字とカナ

漢字・ひらがな・カタカナをうまく使い分けるためのポイントをまとめました。上の表では一例しか紹介できていないため、表にないものは、以下をもとに表記を考えてみてください。

心理的な問題

まず意識したいのが「読み手の心理的な印象」です。

(a)
今回転音が鳴った。
いま回転音が鳴った。

(b)
たった今おなかが鳴った。
たったいまおなかが鳴った。

「今」と「いま」の比較をしてみましょう。(a)は「いま」の方が読みやすく、(b)は「今」の方がいいのではないでしょうか。

(a)は、直後に漢字が続くため、「今」だと「回」とペアで熟語を成しているように読める点を考慮するのが望ましいです
(“今回”のように、熟語として使ったわけではないのに、熟語として使われる機会が多い文字が並んでしまう場合はひらがなに開くのが有効)。

(b)の方を「いま」にすると、ひらがなばかりの文になってしまいます。すると「“いま”は…おそらく“今”だろう」と、頭の中での翻訳作業(脳内変換)が必要になってきます。つまり読者の負担になっているのです。「今」にして負荷を軽減するのが望ましいでしょう。

障害 障がい
子供 子ども

モラルの問題から、漢字ではなく、ひらがな書きをする場合もあります。「障害/しょうがい」「子供/子ども」はその代表例です。「害」も「供」も、ネガティブな意味合いを持つ言葉です。ひらがな書きにしてネガティブな意味合いを無くすのが一般的になりました。

常用漢字(当て字)

常用漢字とは、法令・公用文書・新聞などの文書を書くときに使われる漢字の目安です。たとえば義務教育過程の国語で習う漢字は常用漢字のみとされています。

冒頭の表で書いた「常用外漢字」は、常用漢字には該当しないものの漢字で書かれている言葉です。多くが、漢字が持つ本来の意味とは関係なく、音や訓を当てはめて作った言葉…いわゆる「当て字」です。

大きく括れば、「副詞」「接続詞」「一部の動詞」なども常用外漢字だからひらがな書きが望ましいといえます。文化庁のページなどで都度都度確認しながら、ひらがな書きするのがいいでしょう。

なお、常用漢字はすべて漢字がいい…とは限りません。あくまでも目安に過ぎず、絶対的な制限ではないのです。そのため、常用漢字であるか・ないかよりも、漢字・ひらがな・カタカナのバランスによる読みやすさに意識を向けた方がいい場合もあります。

たとえば「藺草(いぐさ)」の「藺」は常用外漢字です。そのため「い草」と書かれる場合があります。しかし下のような場合は、「い草」でいいでしょうか。

成長が早いい草は、値段が高い。

一見、「い」を誤って二つ記載したのかと感じた人もいるでしょう。常用漢字に従うと、上のような読みにくい文を書かざるをえません。「藺草」の場合は、漢字を使って「藺草(いぐさ)」とするか、漢字にルビを振って「藺草いぐさ」「草」としてもいいでしょう。「イグサ」もしくは「イ草」とカナを使う方法もあります。

また常用外漢字のなかには、ひらがなよりも、カタカナ書きが一般的に用いられるものもあります。最適な表記を毎回検討するようにしましょう。

煙草 タバコ
硝子 ガラス
薔薇 バラ

意味による使い分け(補助動詞・形式名詞・同音異義語)

意味によって、漢字とひらがなの使い分けを考えたい言葉として「補助動詞・形式名詞・同音異義語」が挙げられます。

下さい ください

上に挙げたうち「下さい」は、「お金を下さい」「水割りを下さい」など、なにかを相手に要求するときに使う表記です。

対する「ください」は、相手にある動作を促すときに、動詞に付属して使う言葉です。「お金を貸してください」「水割りを作ってください」などが考えられます。

「ください」のような言葉を「補助動詞」といいます。下記に挙げたような補助動詞は、それぞれひらがなで書くのが望ましいです。

いく (見ていく)
いただく (買っていただく)
いる (風が吹いている)
くる (話が変わってくる)
しまう (言ってしまう)
みる (見てみる)

また下に挙げた、言葉の意味が失われて形だけが残った名詞「形式名詞」も、意味で表記を使い分けるのが望ましいとされています。

事 こと
度 たび
為 ため
時 とき
所 ところ
物 もの
通り とおり

たとえば「所/ところ」の場合、具体的に・明確に場所を表す場合は「所」、そうではない場合は「ところ」とする使い方がなされます。具体的には、「この前遊びに行った所」や「あなたのそのようなところが嫌い」といった使い分けが望ましいです。

分かる・判る・解る → わかる
極める・究める → きわめる

さらに、意味を曖昧にする・広い意味で捉えてもらうために、あえてのひらがな書きが有効な場合があります。

上の例「極める/究める」をもとに説明すると、「極める」は「最上にいたること・頂点に達すること」、「究める」は「よく調べて本質をつかむこと・深く追求して真相を明らかにすること」と、それぞれ意味合いが違います。

漢字書きではどちらか一方の意味しか表せませんが、ひらがな書きにあえてすることで両方の意味合いを合わせた表現が可能になるのです。

送りがなの使い方

「送りがな」にも着目してみてください。本ブログの執筆に当たって参考書としている『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版)では、送りがなの書き方を注意したい言葉として下記のものが紹介されています。

少い・少ない
始る・始まる
住い・住まい

書き手があえて行った表現として、常用漢字で勧められているのとは違う送りがながふられるケースがあります。

むしろ送りがなの使い方が複数ある言葉は、どれが望ましいのかが悩ましく、文部科学省が何度も規定を変更してきた産物だといわれています。望ましい表記がころころ変わるぐらい、“趣味の領域”といってもいいのかもしれません。

なお『日本語の作文技術』の著者・本多氏は、送りがなをなるべく書くよう推奨しています。上の三つの場合は「少ない・始まる・住まい」を採用すべきだと。

理由はシンプルで、送りがなをしっかり付けた方がわかりやすいからです。逆に送りがなを省略した表現は、頭の中での翻訳作業(脳内変換)を読者に強いる可能性があります。

終る
少くない

上の「終る」は、「おわる」とも「おえる」とも読めます。したがって前後の文脈で二択問題を読者に強いる表現なのです。読みやすくするために、「おわる」と表現したければ「終わる」、「おえる」ならば「終える」とするのが望ましいでしょう。

「少くない」は、「すくない」とも「すくなくない」とも読めそうです。「すくない」の語幹は「すくな」までなので、「少くない」は「すくなくない」と読むことになります。しかし「少くない」は、「すくない」だとひと目で判断するのは難しい表記といえるでしょう。「すくなくない」と読ませたい場合は、「少なくない」とするのがわかりやすいといえます。

外国語をカタカナ表記にするときの3つのポイント

漢字とカナ

外国語をカタカナ書きするときにも、表記を悩む人は多そうです。

たとえば腕時計の英語のwatchは、[wˈɔtʃ]と発音します。[wˈɔtʃ]の音をカタカナで表すとき、「ウオッチ」と書くと発音に近くていいかもしれません。もっとネイティブの発音に近い「ワッチ」と書く選択肢もあるでしょう。ただ、ウオッチ・ワッチ=watch=腕時計…と解釈できる日本人は多いでしょうか。

外来語として広く知られている外国語の場合、実際の発音に近い表記で書くよりも、日本語の媒体で用いられる表記を探してマネした方が日本人には通じやすいかもしれません。watchの場合は「ウォッチ」でしょうか。文章をわかりやすくする上で、読者に正しく理解してもらうかが重要になります。

なお日本人になじみのない外国語をカタカナ表記にする場合は、正解が存在しないと考えていいでしょう。正解がないのを前提として、下記の三つを判断基準として使うのをおすすめします。

1.どんなに努力しても実際と一致することは不可能である。

2.実際にそのカナを発音してみて、どれが「原語」により近いかを考える。

3.どうせ不可能なら、むしろ日本人にとって発音しやすい(視覚的にもわかりやすい)方を採用する。

外国語・漢字のまま書くのがよい場合もある

英語のstationery(文房具)とstationary(動かない)のように、スペルや読みが似ている外国語は多くあります。「ステイショナリー」と無理にカタカナにするとわかりにくくなるので、外国語の表記を書いてルビを振る方が誤読も少ないのでおすすめです。

×:ステイショナリー

〇:stationery(文房具) stationary(動かない)、stationery文房具 stationary動かない 

また外国語を日本語訳した書籍の中には、漢字に外国語のルビが入っている表記もあります。カタカナに変えるよりも、思い切って外国語のままの方が意味がわかりやすい可能性があるのです。

ヤバいAwesome!」とジョージは言った。

さらに「ひらがな書きがいい」と冒頭の表などでした中にも、漢字が望ましいとされている場面もあります。

具体的には公用文書を書く場合です。公用文書の場合は、下に挙げたような言葉は漢字で書くのが望ましいとされています。

ひらがな漢字
および及び
ならびに並びに
または又は
もしくは若しくは

漢字・ひらがな・カタカナを使い分ける理由

漢字とカナ

そもそも、漢字・ひらがな・カタカナを使い分ける理由は何なのでしょうか。たとえば「視覚的な読みやすさ」を向上させるためという理由が挙げられます。

大体読者無視の漢字多用が、視覚的に読解困難な文章に繫がる。

上の例文のように、やろうと思えば、大半の文章は漢字まみれに書けるはずです。無意識のうちに、パソコンやスマホの自動変換を鵜呑みにして、上の例文に近い文章を書いている人もいるかもしれません。

では、すべてカタカナやひらながにしてみるとどのように見えるでしょうか。

ダイタイドクシャムシのカンジタヨウガ、シカクテキニドッカイコンナンナブンショウニツナガル。
だいたいどくしゃむしのかんじたようが、しかくてきにどっかいこんなんなぶんしょうにつながる。

漢字が多い例文よりも、カタカナだけ・ひらがなだけの文の方が読みにくく感じたかもしれません。

読みにくさの原因を二つ考察してみました。

■同じような形の文字が並んでいるから

漢字・カタカナは、角があってカクカクしています。対するひらがなは、曲線が中心で丸みのある形です。カクカクした漢字・カタカナと、丸みがあるひらがなが混在している方が、見た目のメリハリがついてそれぞれが認識しやすくなります。

漢字だけ・ひらがなだけ・カタカナだけの場合、似た形の文字が並んでメリハリがないため、読みにくくなっているわけです。時間をかければ読めはするものの、パッと見ただけではどこで区切れるかがわかりにくい。

漢字だらけの例文ではとくに、「体読」や「者無」など、意図した組み合わせとは違う形のように見えて惑わされてしまう(誤認してしまう)のです。冒頭に挙げた“今回”のように、なじみ深い熟語の並びになってしまう場合はとくに注意しましょう。

■表音文字と表意文字の違い

ひらがなとカタカナは表音文字です。表音文字は、読み方だけを表して意味を単体では示しません。意味を解釈するためには、文脈と音をもとにして表意文字の漢字に翻訳する作業(脳内変換)をしなければなりません。理解するのに時間がかかる=読みにくいと感じると考えられます。

以上から、漢字・ひらがな・カタカナを適度に織り交ぜれば、文字の形が均一なために生まれる読みにくさをケアしながら、「視覚的な読みやすさ」を担保できると考えられます。

漢字・ひらがな・カタカナは考えて使い分ける

漢字とカナ

漢字・ひらがな・カタカナの使い分け方を今回考察しました。最終的には、紹介したルールを活用しながら、編集者や依頼主と表記を相談することをおすすめします。表記ゆれを起こすため、ケースバイケースで表記を変えるのは避けたいと思う意見もあるからです。

本記事を執筆・校正する際には、参考資料のページにも載せている『記者ハンドブック』(共同通信社)を使用しました。表記確認および表記ゆれ回避のために使っている媒体や企業が多い書籍です。さまざまな表記を網羅している便利な書籍なので、一冊持っておくといいでしょう。