読点「、」の使い方

文章中に読点(、)をうつとき、あなたはどのような基準に従っているだろうか。原則に従って正確に読点を使わなければ、文章の意味が変わってしまう危険性がある。文章をわかりやすく書けるように、読点の正しい使い方を押さえていこう。
【注釈】
修飾部や修飾節などと本来は呼び分けるべきところを、広い意味での“かかる文節”を「修飾語」と本記事では総称している。
読点の役割
読点は「思想の最小単位を示す」ものだと考えてみてほしい。下の例文をみてみよう。
彼の持ち込み企画は自社の会長に3回も取り下げられた。
しかし、彼のやる気はその程度の失敗で消えるものではなかった。
「しかし」の次にある読点が無くても文章は成立する。あえて読点を入れた理由は、逆説を強調したかったからだ。上の例文は筆者が以前書いたもので、「しかし」の前にあるネガティブな失敗談と「やる気は……消えるものではなかった」というポジティブな話の対比をより強調するために読点を用いてみた。
下の例にある読点はどのような役割だろうか。
彼は、続けた。
「彼は」と「続けた」をわざわざ読点で分けたのはなぜか。それは「彼は」を強調したかったからだ。上の例文だけではわからないが、たとえば他の人は〇〇するのを止めてしまった中で彼だけが続けたのであれば、“彼は”を強調する手段として読点が活きてくる(副助詞の「は」も、強調や区別の役割を果たしている)。つまり読者にとって読点は、筆者の主観で表現した思想を読み解く目印になるのだ。書き手の立場では、強調したい想いをフォーカスさせる手法として読点が役立つだろう。
読点の二大原則
役割を理解した上で、正しく読点を使うための原則を学んでいこう。『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版)の著者である本多氏が原則として紹介している二つのルールを、本記事でもチェックしていきたい。
原則(1):長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ
原則(1)は「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」である。さっそく例文を使って原則(1)を理解していこう。
休職理由が人間関係だと言われるとなにかハラスメントがあったのかなと思う。
見てのとおり読点がない。読点をうつならばどこだろうか。原則(1)は修飾語の境界線に読点をうつので、修飾語ごとに分解してみよう。
「思う」に対して二つの修飾語がかかっている。原則に従って読点をうってみよう。
休職理由が人間関係だと言われると、なにかハラスメントがあったのかなと思う。
読点の位置は自然に感じるのではないだろうか。筆者自身も読点のない状態よりも、それぞれの修飾語が明快に見える感覚を抱いた。
それでは、修飾語を増やした例文をみていこう。
入社当初からのトラブルを知る同期も新人も彼の休職理由を聞くと言葉を詰まらせた。
今回は図解をしないので、修飾語のまとまりを意識しながら読点をうってみてほしい。下の2パターンだと文章にどのような違いがあるだろうか。
(a)入社当初からのトラブルを知る同期も新人も、彼の休職理由を聞くと言葉を詰まらせた。
(b)入社当初からのトラブルを知る同期も、新人も、彼の休職理由を聞くと言葉を詰まらせた。
(a)は読点が一つで(b)は二つある。ぜひ、読点のあり・なしによる意味の違いを考えてみてほしい。(a)は、休職をする彼の同期も新人も、入社当初からのトラブルを知っているという意味になる。(b)は、「入社当初からのトラブルを知る同期」と、修飾語を持たないただの新人とを読点で区別している。一般的に、入社当初からの彼のトラブルを知っているのは先にいた先輩か一緒に入った同期だけで、“新人”と呼ばれる後から入ってきた人は含まれないはずだ。よって(b)の方が好ましいと考えられる。
つまり原則(1)を正しく使っていくには、まず文章の意味を正確に捉え、次に修飾語がかかる部分を見定めて読点をうつ必要があるのだ。修飾語の使い方と合わせて文章力の向上をしていこう。
原則(2):語順が逆の場合は読点をうつ
原則(2)は「語順が逆の場合は読点をうつ」である。例によって検証文を用意した。
私が涙が出るほど大好きなBを私の恋人CにAが紹介した。
読点がなくても読めなくはないだろう。それでは文章に少し変化を加えてみよう。
Aが私が涙が出るほど大好きなBを私の恋人Cに紹介した。
途端に読みにくい文章と感じたのではないだろうか。下のように読点をうつ場合はどうだろう。
Aが、私が涙が出るほど大好きなBを私の恋人Cに紹介した。
読みにくさは減少したのではないだろうか。つまり読点の使い方として適切といえるだろう。最初の例文では、かかる言葉「紹介した」の手前に「Aが」があったが、冒頭に移動し読点を添えてある。つまり、原則(2)にしたがって語順が逆の場合に読点をうっているのである。
文章をわかりやすくするためには、修飾語の順序を「長い修飾語前に、短い修飾語を後ろに」するのが原則である(詳しくはこちらの別記事を参照)。上の例は、「私が涙が出るほど大好きなBを」と「私の恋人Cに」と「Aが」の三つが「紹介した」にかかる。もちろん「Aが」が最も短い修飾語だが、文章の冒頭にあるのは修飾語の原則違反にあたる。しかし今回の本題である読点の原則(2)を用いれば、読み手の混乱を防げるのである。
読点の悪い例
誤った読点の使い方をすれば、本来の役割を損なう場合や文章の意味さえも変えてしまう危険性がある。さっそく悪い例文をみていこう。
例文(1):意味が変わってしまう
彼はべろべろに酔って、倒れかけた親友を車で送迎して感謝された。
「べろべろに酔った彼が、倒れかけた親友を介抱した」と読めるはずだ。しかし実際は、(飲酒運転の状況説明ならばともかく)“彼”は酔っていてはいけない。飲酒運転で送迎をした場合、怒られるか逮捕されるかはしても感謝はされないはずだ。もちろん酔っているのは親友で、だからこそ倒れかけている。文章の意味から正確な読点の位置を修正すると下のようになるだろう。
彼は、べろべろに酔って倒れかけた親友を車で送迎して感謝された。
読点の原則に当てはめると原則(2)にあたるだろう。あらためて最初の読点を振り返ると、まるで会話中に意図せぬところで息が切れたような変な読点の位置である。なお原則(2)を使っているので、適切な語順に戻せば以下のようになる。読点をうたずとも状況が読み取れるだろう。
べろべろに酔って倒れかけた親友を車で送迎して彼は感謝された。
例文(2):句点と誤解しそうな読点
普段も頻繁に泥酔している、親友は今回も例外ではなかった。
読点を句点に置き換えられる可能性がある場合は、読点をうたない方が一般的には望ましい。上の例文では、読点の直前に助動詞の「ている」(文語的には「てる」)が書かれている。しかし「ている」は、連体形も終止形も「ている」だ。そのためパッと読んだときに、句点と見間違えて文が終わると誤解する危険性が生まれているのだ。上のような読点は、読点とマルの区別がなくなるので読点本来の役割を侵害してしまう。つまり上の例文にある読点は、うってはならない読点といえるのだ。
その他の使い方を本多氏の原則に当てはめて考える
最後に、“一般的”な読点の使い方も補足しておく。あくまでも先に紹介した原則(1)と(2)を身につけるのが最優先なので、あえて本多氏の考える二大原則に当てはまるかどうかも合わせて検証していく。
Ⅰ:重文の境目
米国株が記録的な暴落に見舞われ、日本では歴史的な円安に陥った。
重文とは単文が二つ以上重なった文である。「米国株が記録的な暴落に見舞われる」のように述語が一つだけの文章のことを単文と呼ぶ。そして上の文章のように、単文が二つ重なった文が重文と呼ばれるのだ。
重文の境目に読点をうてばそれぞれの単文が読みやすくはなる。ただし原則(1)に従えば、読点をわざわざうたなくても済む。「見舞われる」と「陥る」は、言い回しこそ異なるが、広くネガティブな意味では同じだ。よって以下のように言い換えられる。
米国株が記録的な暴落に、日本円は歴史的な円安に陥った。
「陥る」にかかる二つの修飾語の間に読点をうつ文になった。まさに原則(1)にあてはまる。
Ⅱ:述語が先にくる倒置文の場合
間違いないな、犯人はあの男で。
これは原則(2)で説明ができる。「犯人はあの男で間違いないな」と本来は書くところを、倒置によって語順が逆になっているのだ。
Ⅲ:挿入区の前後または前だけに
長期金利上昇、とくにアメリカのそれがいかに重要か…
世界の個人投資家は、どれだけ不確実であろうとも、リーマンショック後しばらくは、この視点を念頭に米国株価を見つめ、株式投資を行ってきた。
最初の読点は、原則(2)を基に考えるといいだろう。短い修飾語「長期金利上昇」を前におくからである。仮に長期金利上昇の説明が長くなれば、原則(1)で解釈すればいい。後半の「世界の……」以降の文章は、「行ってきた」にかかる長い修飾語の羅列だ。従って間にある読点も原則(1)で説明できる。
Ⅳ:呼びかけ・応答・驚嘆などの後
あっ、日本株まで暴落した。
君、あれほど大丈夫だと言っていたではないか。
はい、しかし株の短期的な値動きとだけは読めないものです。
上の読点は本当に必要だろうか。読点を使わずに書くとどうなるかを考えてみてほしい。たとえば下の方法で置き換えらえる。
あっ!日本株まで暴落した。
君!あれほど大丈夫と言っていたではないか。
はい……しかし株の短期的な値動きとだけは読めないものです。
文章として十分に成立にしている。つまり読点をうつ必要はないと言ってよいだろう。
Ⅴ:重要でない読点はうたない
AがBをCに紹介した。
上の例文では、ABCの3人が修飾語として「紹介した」にかかっている。「Aが、Bを、Cに紹介した」としても誤りではない。しかし修飾語が短いので、読点はない方がスムーズに読めるのではないだろうか。
あえて五つの方法の最後に「Ⅴ:重要でない読点はうたない」の説明した理由は、先の二大原則と同じぐらい重要だからだ。必要ない読点をうてば、適切な修飾ができないリスクも生まれてしまう。読み手に誤解を招く危険性まで生じかねないのだ。
読点は原則を意識して使おう
役割や原則を理解した上で正しく読点を使えれば、文章が格段にわかりやすくなるだろう。原則を意識しながら文章を読むだけで、書くときの練習になる。原則を踏まえて読点をうつ訓練を続けつつ、原則であると言い切れない読点は控えることも意識していこう。
執筆:山野隼
編集:田中利知
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