間違いやすい助詞

日本語の助詞は、文章を構成する上で重要な役割を果たす。ネイビープロジェクトで参考文献にしている『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版)でも、助詞の重要性は丁寧に解説してある。『日本語の作文技術』で指摘されている「間違いやすい助詞」三つを、本記事でも検証していきたい。
助詞「まで」と「までに」とは
「まで」と「までに」は、間違いやすい助詞の一つである。それぞれの使い分けと品詞の種類を確認していこう。
まで【副助詞】
「まで」は、動作の到達点や、距離および時間に関する範囲または期間(限度)を表わす副助詞だ。「まで」の後には、継続性・連続性のある動作を示す動詞(「動作動詞」の中でも「継続動詞」)が続く。動作がいつ・どこまで継続・連続するのか(つまり動作の“終点”)を示す役割を果たす副詞節を作るのだ。
例文で確認しよう。副助詞の役割を【】で囲って文末に記載したので併せてチェックしてほしい(なお副助詞が示す役割の表わし方は諸説あるので細かくは言及しない点は了承いただきたい)。
(1)朝から晩まで記事を書く。【期間】
(2)正午まで待つ。【期間(限度・締め切り)】
(3)駅まで歩こう。【到達点】
(1)は、「晩まで」による終点だけでなく、「朝から」によって始点も示されているので“いつからいつまで”の「期間」を示しているのが明快だ。続く(2)では、「正午まで」と動作の終点が示されている。「待つ」を続ける期間の終点なので、“限度”や“締め切り”と呼んでもよさそうだ。最後の(3)は、「歩く」を続ける範囲の終点なので“到達点”を示している(“ゴール”や“目的地”といってもいいかもしれない)。
■補足:「添加」の副助詞「まで」
副助詞「まで」には、「添加」の意味を加える役割もある。「まで」の後に続く動詞に、「まで」より前にある内容を添える役割だ。前にある言葉を伴って副詞節を作り、後に続く動詞を修飾するといってもいいだろう。例文で確認しよう。
明日の仕事まで終わらせた。
「明日の仕事」と「まで」がセットになって「終わらせた」を修飾している。(文の登場人物は)今日の仕事だけでいいのに、明日の分まで終わらせたようだ。その“+α”のニュアンスを説明するときに「まで」が活きてくる。先に説明した“終点”のニュアンスとは違う点を意識して使っていきたい。
までに【副助詞+格助詞】
「までに」は、副助詞「まで」と、対象・場所・時間などを示す格助詞「に」の連語だ。場所や時間を表す言葉を伴って、後に続く動詞(動作動詞の中でも「瞬間動詞」)が示す動作の終点(最終期限・締め切り・限度など)を表わす。
使い方は、たとえば下のようなものだ。ここでも、「までに」が示している役割を囲って文末に記載したので、併せてチェックしてほしい(なお、助詞が示す役割の表わし方は諸説あるものの、細かくは言及しない点をここでもお詫びする)。
(a)正午までに記事を書く。【まで:期間(範囲)】【に:時間】
(b)駅(に着く)までに電話する。【まで:到達点・範囲】【に:場所】
(a)では、「正午」と「までに」による副詞節が、後に続く「記事を書く」の時間的な終点(期限・締めきり)を示している。(b)では、「駅まで」という到着地および「駅(に着く)まで」という期間や範囲を、「電話する」の終点として明確化する役割が「までに」にあると解釈ができそうだ。瞬間動詞が示す“短時間で終わる動作”を完了させるゴールを明確化しているといってもいいかもしれない。
<h3>助詞「まで」と「までに」の違い
「まで」と「までに」の違いを理解することは、文章をわかりやすくする上で重要だ。両者の違いである「に」の有無によって、文の意味がどのように違ってくるのかを確認してみよう(文から読み取れる潜在的なニュアンスを[]で囲って書いてみた)。
(Ⅰ)来週まで記事を書く。
[終点「来週まで」は「記事を書く」を継続していなければならない]。
(Ⅱ)来週までに記事を書く。
[「記事を書く」を完了すれば、終点「来週までに」の前であっても「記事を書く」を止めてもいい(継続していなくてもかまわない)]。
「に」以外、(Ⅰ)と(Ⅱ)はすべて同じ文である。(Ⅰ)のような「まで」は、期間の終点を単に示すだけ。物理的・距離的、時間的な“線の終わり”を示す以上の役割を持ち合わせていない。
では「“線の終わり”を示す以上の役割」とはなにか。「点としての“終わり”を示す役割」とでもいえるだろう。その「点としての“終わり”の役割」を果たすために「まで」に「に」がついた連語が用いられると考えられる。(Ⅱ)にある「来週までに」は、過去・現在・未来へと連なる時間軸(線)において“来週まで”という明確な点(期限)を示す働きをしている。「までに」の方がより“点”にフォーカスしたニュアンスを含んでいるのだ。「到達点」の解釈が「まで」にもあったが、“点”をより強調できる点は「までに」の特徴といえるだろう。
接続助詞「が」は逆接に注意
接続助詞の「が」は、別記事でも紹介したとおり、「逆接」と「並立(並列・単純接続)」の二つの意味を示す役割がある。使い方のポイントは、「が」は逆接の場合にだけを使うことだ。「並立(並列・単純接続)」の「が」は、使わない方が読者には親切だといってもいいかもしれない。2種類の接続助詞が混在していると、どちらの意味か考えさせる作業を読者に強いてしまうからだ。それぞれの「が」を使った例文で、使い方を確認しよう。
並立(並列・単純接続)の接続助詞「が」
並立(並列・単純接続)の場合、論理関係が変わらない・対等な文節が「が」を挟んだ前後に並ぶのが特徴だ。同種の接続助詞には「し」や「て」などがある。詳しい解説や用法は別記事で紹介しているので参考にしてもらいたい。
山野は必死に勉強したが、試験に合格した。
接続助詞「が」は便利で使いやすい。前後の対等な文節をつなぐ意味では、極端にいえば接続詞の「そして」のような役割すら「が」は担えてしまうといえる。上の例文のような使い方がまさにそれだ。見慣れない「が」の使い方で、違和感を抱く人もいるかもしれない。実は、わざわざ書いただけで、例文のような表記があれば真っ先に校正を入れる。しかし、並立の接続助詞「が」が存在する以上、文法的には間違っていない。「勉強したし」や「勉強して」と、同じ並立の接続助詞で置き換えても意味が取れる。
接続助詞「が」は便利がゆえに、多用されがちなのである。そのため逆接の「が」のように誤読される危険性を生んでいないか注意が必要なのだ。「余談ですが」や「脱線するが」など、会話で慣用句的に使いがちな「が」の表現も含まれる。文章を書く上では、逆接の「が」との混乱を避けるためにも使用を控えるのが望ましい。
逆接の接続助詞「が」
正しく「逆接」の接続助詞「が」を使うには、「が」を挟んだ前後の文章を、逆の意味にする必要がある。
天気予報で雨が降ると聞いたが、雨は降らなかった。
接続助詞「が」を挟んで前後の文が反対の意味になっている。上の例文のように、前の文とは反対の内容や矛盾・対立する内容が後に続くのが逆接だ。さらに逆接の役割を際立たせるために、接続詞「しかし」を使って2文に分けるのもいいだろう。
天気予報で雨が降ると聞いた。しかし、雨は降らなかった。
逆接の関係がわかりやすくなったはずだ。冗長さをなくし、文章を読みやすくするために、重文(同じレベルの主部と述部が2セットの文)を単文(主部と述部が1セットの文)にしたのも影響しているだろう。説明したとおり接続助詞の「が」は並立の場合でも使え、逆接と混同させる危険性がある。そのため「しかし」のような接続詞で代用して読みやすくするのもよいだろう。
並立(並列)の助詞「や」・「と」・「も」・「か」の使い方
格助詞の「と」や「や」や、副助詞の「も」や「か」などは前後の並立関係を示す。まさに前の一文にあるように、二つ以上の言葉をつなぐ役割である。並立関係が三つ以上ある場合に注意したいポイントをみていこう。
並立(並列)の助詞の位置
三つ以上の並立関係を示す場合は、「や」や「も」などをつけるならば、最初の言葉の後につけるのが読みやすいとされている。また二つ目以降の並立関係の区切りには、「・」(中点)を入れるようにし、区切りに読点「、」を使うのは望ましくない。別記事でも紹介したとおりだ。例文で確認しよう。
(A)哺乳類のサルやクジラ・イヌ・ネコは共通点がある。
あくまで読みやすさの観点で、上の例文のような位置に並立の助詞を使っていきたい。「と」・「も」・「か」(のほかにも「とか」・「に」・「だの」・「やら」・「なり」)で置き換えた場合も同様である。中点を使う理由は、「や」を何度も使うよりも視覚的に読みやすくなるからだ。
※編集者から余談を一つ。三つ以上の並立関係を示す場合も、すべての要素を中点で並べる書き方を編集者は推奨している。理由は、一つでも並列の助詞を入れると読点に書き換えようとする依頼主が多かったからだ(あくまで経験上)。
たとえば上の例文を納品した場合、「サルやクジラ、イヌ、ネコ」と、慣れ親しんだ読点に変えてしまう依頼主が何人かいた。しかし弊社では考えて読点を使っている。逆にいうと、意図せぬ読点は積極的に削っている。そのため中点を読点に変えるのは改悪になってしまうのだ。
また同じく経験則として、「サル・クジラ・イヌ・ネコ」と書くと読点への書き換えが行われたことがない。依頼主の感性によるため、詳しい・正確な理由はわからないが、中点の積極的な利用によって読点への書き換えを減らす工夫を編集者はオススメしている。
並立(並列)の助詞「も」と「か」の注意点
三つ以上の並立関係を「も」や「か」でつなぐ場合は、最初の言葉だけでなく、最後の言葉にもつけるのが自然である。「も」と「か」以外の助詞をあえて使った例文と比較してチェックしていこう。
(B)サルもクジラ・イヌ・ネコ・ゾウも哺乳類だ。
(B’)サルもクジラ・イヌ・ネコ・ゾウは哺乳類だ。
(C)晴れか曇り・霧・雨・嵐かは、そのとき次第だ。
(C’)晴れか曇り・霧・雨・嵐は、そのとき次第だ。
(B)と(B’)、(C)と(C’)を比較してみてほしい。(B’)と(C’)が不自然に感じられるだろうか。たとえば(B’)は、「サルも」の「も」を「・」にした方がまだ読みやすい。(C’)も同じ印象を受けただろう。並立関係の助詞「も」と「か」を最初の言葉で使うならば、並立させる最後の言葉の後にも「も」と「か」をつけるようにしていきたい。
並立(並列)の助詞「と」の注意点
並立関係の最後の言葉に、「と」を使うケースとそうでない場合では、文章の意味が変わってくる。例文の方が説明しやすいので、まずは下の2文を比較してほしい。
(D)山野と田中と加藤が勝負した。
[山野と田中のチームで、加藤と勝負した。]
[山野と田中と加藤の3人で勝負した。]
(E)山野と田中と加藤とが勝負した。
[山野と田中と加藤の3人で勝負した。]
(D)は、並立関係の最後にある「加藤」の後に「と」がついていない。解釈は[]の二つが考えられ、どちらを意図しているのかが読み手にはわからない。もし後者「山野と田中と加藤の3人で勝負した」の意味で書きたいのであれば、(E)のように「加藤」の後にも「と」をつける方が論理的だ。
さらに、「加藤」を強調するために、冒頭に「加藤」を書く方法もある。そのとき山野と田中が連合軍であることを明確にするために、下のように並列の助詞を二回書く方法も有効といわれている。
加藤と、山野と田中ととが勝負した。
助詞を正しく使い分けよう
今回は助詞の中でも、間違いやすい三つをピックアップして学んだ。「まで」と「までに」は、線と点のニュアンスを意識しながら使い分けたい。接続助詞の「が」は、並立の用途を避け、逆接の場合だけ使うように意識しよう。並立(並列・単純接続)の接続助詞は、並立する要素の最初の後だけでなく、文の意味を考慮しながら場合によっては最後の要素の後にも助詞を入れるべきか検討していこう。別記事で紹介した助詞の使い方も、本記事と同様に重要なので併せて参考にしてほしい。
執筆:山野隼
編集:田中利知
-
前の記事
助詞の使い方 係助詞「は」 2022.12.27
-
次の記事
わかりやすい文章を構成する段落とは 2023.01.20