文章のわかりにくさは「修飾と被修飾の位置関係」にある

文章のわかりにくさは「修飾と被修飾の位置関係」にある

文章がわかりにくくなってしまう原因は何だろうか?たとえば「修飾(修飾する言葉)」と「被修飾(される言葉)」の関係がきちんと成り立っていないことが一因になっている。修飾と被修飾を行う語同士が離れているとわかりにくい文章になってしまうのだ。長文になれば、書くべき情報や書きたい内容も自然と増えてくる。そんなときこそ、修飾と被修飾の位置関係に注意を払うと文章がわかりやすくなるだろう。

【注釈】
修飾と被修飾の関係だけに着目しやすいように、本記事では、広い意味の「かかる文節」(「うける文節」の対)を「修飾語」と記述している。今回は、語・節・部などの細かい違いを説明するのが主旨ではないからだ。狭義の呼称でいえば、単語の場合を「修飾語」や「被修飾語」、複数の単語が連なっている場合を「修飾部」や「被修飾部」[中でも主述を伴う節で構成されている場合を「修飾節」や「被修飾節」]と使うのが正しいかもしれない。「修飾語」を補語・補足語・補足部などと読み替えてみてもいいだろう。いわゆる主語も連用修飾語の一種とみなしており、述語(述部)にかかるすべての単語・文節・連文節(句)を修飾語と考えて説明している。

離れすぎ!! 修飾と被修飾の位置関係を解説

修飾語・被修飾語

修飾語と被修飾語それぞれが離れている、わかりにくい文章の例をみてみよう。

私は田中が山野が加藤が事故をした現場にいたと話しているのかと思った。

読んでみて、スッと内容が理解できた人は少ない(いない)のではないだろうか。書いた筆者ですら、何度も見直してしまうほどわかりにくい。修飾と被修飾の位置関係を図解してみよう。

修飾語・被修飾語

上のように関係性を図解すると、「私は……思った」の間に修飾語と被修飾語のセットが幾重にも重なっているのが見えてくる。極端にわかりにくく書いた例文ではあるが、文法的に破綻はしていない。しかしこのままでは耳で聞いても理解に苦しむだろう。

では上の文章を、言葉や単語を変えずにわかりやすくするためにはどうしたらよいだろうか。たとえば修飾語と被修飾語を「直結」する方法がある。直結とは、修飾語と被修飾語をなるべく近づける方法だ。「私は思った」のように、修飾語と被修飾語を機械的に直結してみよう。

修飾語・被修飾語

位置を変えただけで、まったく違う文章に感じられたのではないだろうか。修飾語と被修飾語をうまく使いこなす第一歩として、それぞれが直結するように並べる書き方をオススメしたい。少し極端な例と感じたかもしれないが、意識をしなければ“離れすぎ”な文章を書いてしまう可能性はあるだろう。

被修飾語がない文章

修飾語・被修飾語

文章を書くとき、書きたい気持ちが先行して被修飾語を書き忘れてしまうケースがある。修飾語を書き始めたにもかかわらず被修飾語が抜け落ちているケースをみていこう。

ここで重要なのは、非単係の社会に血縁集団が存在しているばあい、必ず土地・財産などはその成員メンバーが共有するか、あるいは一成員メンバーの所有となる土地と財産とに他の成員メンバーが依存することが必要だと思われる。血縁組織そのものが、非常に流動性に富み、単系と違って成員メンバーが構造的に決定されていないから、一定の地域に居住し、一定の土地・財産を共有しない限り、成員メンバーの団結は困難である。
引用『現代文化人類学 第3巻』(中山書店)

冒頭に「ここで重要なのは」と書かれている。この修飾語に対する被修飾語を探してみよう。しかしいくら探しても被修飾語に該当する記述は見当たらないはずだ。もちろん上の文章も意味は理解できるかもしれない。それでも文法的には不備がある状態だと考えられる。具体的に分析してみよう。

「ここで重要なのは」に対する被修飾語は「必要だと思われる」が文脈的に適当だろう。しかし「思われる」で文が閉じられていると違和感を覚えないだろうか。「重要なの(こと)は」で始まったのであれば、「思われる(こと・点)」と表現する方がスッキリする。文章構造を図解してみよう。

修飾語・被修飾語

上のように構造を図式化してみると関係がよくわかるだろう。それでは具体的な修正案を作ってみよう。

■改正案(1)

非単系の社会に血縁集団が存在しているばあい、必ず土地・財産などはその成員が共有するか、あるいは一成員の所有となる土地と財産とに他の成員が依存することが必要だと思われる点がここでは重要だ。

冒頭にある「ここで重要なのは」を文末に移動し、「……と思われる点が」と修正する。基本どおりに“直結”すれば、文法的にも問題なく読みやすいだろう。また前後の文脈によっては、「必要」と「重要」をまとめて「……依存することがここでは重要と思われる」としてもいいかもしれない。

■修正案(2)

ここで重要なのは次の点である。すなわち非単系の社会に血縁集団が存在しているばあい、必ず土地・財産などはその成員が共有するか、あるいは一成員の所有となる土地と財産とに他の成員が依存することだ。

修飾語「ここで重要なのは」に対して、被修飾語「次の点である」を直後に設置した。さらに「すなわち……」と続ければ、「次の点」=「すなわち」以降の文章であると読み進めやすくなるだろう。

修飾語と被修飾語が離れすぎてしまうと、書いているうちに被修飾語を忘れる場合がある。そうなると今回の例文のように文法的な齟齬が出てしまう。2つの言葉関係を「直結」する作業がいかに大切か理解できたのではないだろうか。“基本のキ”として認識していこう。

否定の言葉は要注意

修飾語・被修飾語

ここまで修飾語と被修飾語の距離に関して注意を払ってきた。関連して認識しておきたい項目に、「否定の言葉」を修飾するケースがある。例文をみていこう。

先生の話では、木田は、大谷や野口のように親に進路を決められ、医者になるよう言われて育っていないようだ。

「木田は医者になるように言われて育ったのか?」を疑問に思った人も多いかもしれない。考えられる可能性を2パターンに分けてみた。

・パターン(1) 3人とも医者になるように言われて育った
・パターン(2) 大谷と野口は医者になるように言われて育ったが、木田は違う

どちからといえば、パターン(2)のつもりで書いた文だ。直結の作業をおこなって、否定の修飾関係を明確にしてみよう。

先生の話では、大谷や野口は親に進路を決められ医者になるよう言われて育ったが、木田は言われて育っていないようだ。

これで意味がわかりやすくなったのではないだろうか。「離れすぎ」だけでもわかりにくい文章になってしまうが、否定が絡むともはや英作文のような作業に感じたのではないだろうか。

修飾と被修飾の位置関係を考えて文章を書こう

修飾語・被修飾語

修飾と被修飾の位置関係に着目して文章をわかりやすくするコツを今回紹介した。それぞれの言葉の離れすぎが文章をわかりにくくする原因だと説明できたのではないかと考えている。わかりやすい文章を書く技術は他にも多く存在する。文章力の向上に励んでいる人は、修飾と被修飾の位置関係に着目するところからまずは始めてみてほしい。

執筆:山野隼
編集:田中利知