文章を執筆する

文章の執筆は簡単に思えるかもしれない。ただ、文章をわかりやすく書くにはテクニックや事前の準備が実は必要なのである。そのテクニックを本ブログでは考察してきた。『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』(唐木元,株式会社インプレス)を参考に、今回は執筆の工程を考察する。
文章を書き始める
準備を終えて構造シートが仕上がったら、いよいよ執筆開始だ(準備の工程については別記事を参照してほしい)。
「言葉づかい」を気にし過ぎない
下のピラミッドは、別記事ですでに掲載したものだ。執筆前の「準備」の作業を考察する中で使ってきた用語を上のピラミッド的に解釈すると、「事実」が「要素」、「論理」が「順序」や「軽重」に該当する。
執筆のときの「言葉づかい」が気になって時間がかかる場合もあるだろう。別記事でも、「事実→論理→言葉づかい」の順で階層を積み重ねて文章は構築されるのが望ましいと紹介した。ここまで「事実」と「論理」を丁寧に考えてきたため、「言葉づかい」も丁寧にいきたい気持ちはわかる。だが「論理」まで整理できたら、「言葉づかい」は気にせず、最後まで一回書くことを意識したい。
最も上位の層にあたる「言葉づかい」は、「事実」と「論理」による文章の土台の整理、つまり「経路」の整備ができたあとの“仕上げ”の工程だといえる(もちろん「経路」を設定する前にやっておくべき「目的地」の設定が必要なのはいうまでもない)。参考文献では、「言葉づかい」を整える前の「事実→論理」の構築で、執筆の70%は完了していると説明されている。その点は、構造シートを作ってきた中で共感できる部分が多いのではないだろうか。いきなり100%を目指すのはハードルが高いため、書けなくなる可能性が余計に生まれてしまう。だからまずは70%でいいので、一度書ききってから“仕上げ”を別工程として考えたいのだ。
なお「言葉づかい」の具体的な内容(“このように書くのが望ましい”との個別具体的な解説)は、違う記事で考察するようにしたい。多数の項目に細分化されて、今回だけで解説しきれないからだ。まずは、「事実」と「論理」による文章の土台(「目的地」や「経路」)の整理に努め、文章の70%をしっかり作れる力を養いたい。
構造シートを書き写して文章にしていく
手書きした構造シートを執筆用ソフトの作業スペースに書き写し、実際に執筆作業に入ろう。構造シートの「目的地」の部分を暫定のタイトルとして書いておく。続けて構造シートの「要素」を入力する。同じ要領で、別記事で検討した構造シートを文章にしてみたので確認していこう。
【タイトル】 漫画『ライター』のイベント、さまざまな10を意識して開催 【本文】 『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。 『ライター』の新巻発売記念イベントは、応募ハガキを出した人から抽選で10名限定で参加できる。 『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。 『ライター』という名の漫画がある。 『ライター』が、作家・佐藤太郎さんのデビューから通算10作目に当たる。 『ライター』が、アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら、連載10周年を迎えた。
「目的地」と「経路」がしっかり設定できていれば、構造シートをベタ打ちしただけでも文章の全体像が見えるはずだ。「目的地」をそのまま、原稿のタイトルにしても違和感がない場合も多いだろう。本文も、「要素」として厳選した「ネタ」だけを並べたので、書き写しただけで“それっぽく”なる。ここまで準備ができていると、ゼロから書き始めるわけではなく、調整や追記程度の作業で済む(文章としてのテイをすでに成している)ため心理的な負担も少ない。
またすでに説明したとおり、執筆段階から100%を目指すのは止めよう。構造シートを並べただけでも、40〜50%程度は原稿が執筆できているといってもいいだろう。あとは「要素」を自然につなげ、まずは70%の原稿を作れればよい。うまく書こうとせず、自分が書ける原稿をまずは一度形にすればここではOKだ。
トレーニングを重ねて「書く力」を鍛えていこう
文章をわかりやすく書けるようになるためには、何度も書く・書き続ける以外に近道はない。「書く→推敲→書く→推敲→書く…」をひたすら繰り返す。何度も書いて推敲して、少しずつ能力を養っていくしかない。
構造シートも同じだ。参考文献では、記者を目指すならば2か月間で100本の構造シートを作るぐらいの量が必要だと紹介している。このペースでのトレーニングを2年間続ければ、構造シートを10〜15秒足らずで、しかも脳内で作れるようになるそうだ。慣れない内は時間がかかってもいいので、じっくり考えて力を養っていきたい。
むしろ当社としては、ひと原稿に対して4〜5本の構造シートを作る練習を勧めたい。とくに、「目的地」や「経路」を変えて、まったく違うものを複数作るのが望ましいと考えている。理由は、さまざまな角度から「目的地」と「経路」の設定を行えるようになり、それを構造シートや原稿の形に作り分ける力を養った方が実用的だからだ。別記事で紹介しているだけでも「順番」で3パターンの違いが生じる。ほかにも「目的地」(コンセプト)や「経路」(要素・軽重)の違いでさまざまな構造シートが作成可能だ。媒体および制作物の目的やクライアントの要望などによって、同じ「ネタ」であっても多面的に捉えて構造シートや原稿を的確に作り分けられる力を磨いていきたい。
書けないときの対処法
構造シートに沿って70%の原稿を目指して書き進めても、手が止まるときがある。さまざまな対処法がある中で、以下の三つを試してみてはいかがだろうか。
最後まで一旦書き進める
「言葉づかい」のところでも紹介したとおり、完成度を気にせず最後まで一旦書き進めることをとにかく意識したい。書けない箇所に固執していると、時間が奪われるだけだ。「書きにくい」「進まない」と感じた箇所も、一旦放置する勇気を持とう。
そしてすべて書き上げてから、あらためて見直すのだ。全体を書き終えてから見直すと、文章を客観的に見られるので、書き足りていない・書き過ぎていらない箇所が冷静に見やすくなる。最初と最後で表記ゆれをしている場合などは、全体を通してあらためてチェックした方が気付きやすい。頭の中に内容が入っていなければいないほど、クリアな状態で見直しができる。別の作業をやってみたり、実際に何日か空けてから見直したりするのがよい。
構造シートを段落単位で作ってみる
書きにくさを感じた場合は、章や段落別に構造シートを作り直してみるのも解決策の一つだ。文字数が多い(2,000〜3,000文字を超えるぐらい)の文章は、全体を把握しながら執筆するのが難しい。慣れるまで時間と労力を要する。そのため全体を気にし過ぎて執筆が進まなくなるのであれば、一つの要素だけにフォーカスして構造シートをよりミクロな視点で作り直すだけでも違いが出るだろう。「ネタ」や「要素」がそもそも整理できていない場合、頭で考えても「目的地」から逸れていくだけだ。前の工程に一度戻ってみる勇気も時には重要である。
人に話してみる
文章の内容を人に話してみるのも一つの方法だ。「ネタ」や「要素」の整理につながり、話しやすい「順番」や「言葉づかい」を実感でき、さらに文章の見直しにもなる。わかりにくい点や説明し過ぎた点を、第三者目線で指摘してもらうのもいいだろう。文字として書こうとすると完成度が気になって手が止まる場合でも、知人や友人に話すのであれば神経質になり過ぎずに文章を組み立てられるはずだ。書けない原因を多方面から確認できるので、困ったらぜひ試してみたい。
とにかく、“まず一回書く”
執筆の工程を今回考察した。具体的な「言葉づかい」についての考察を今回避けたため、やや消化不良の人もいるかもしれない。だが「言葉づかい」は“仕上げ”であって、執筆のあとの作業、つまり執筆とは違う工程として認識するのがよいなのだ。そのため執筆工程では、“まず一回書き終える”ことの重要性を説き、書き終えられないときの対処法を合わせて考察した。こちらも紹介したとおり、書く力はすぐには養われないので、構造シート作成や執筆を何度も繰り返してトレーニングに励んでいこう。
執筆:山野隼
編集:田中利知
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