文章を書くための構造シートを作る

良文を量産できる人ほど、文章作成の工程において執筆にかける時間の割合が少ない。スタートからゴールまで書く内容や構成がしっかり「準備」できており、考え直しや調べ直しの必要がほぼないからだ。執筆をスムーズに行うための「準備」のポイントを、『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』(唐木元,株式会社インプレス)を参考に、一緒に学んでいきたい。
構造シートを作ってみよう
別記事で紹介したとおり、文章を書く「目的地」と「経路」をまずは決める必要がある。そこがまだチェックできていない人は、別記事の方からまず読んでみてほしい(以下では、別記事で言及している単語を“説明済み”の想定で使う点をおわびする)。
構造シートは、まずは手書きで作る
「目的地」と「経路」の設定が終わったら、全体の構造を整理していこう。集めた「ネタ」に優先順位を付けたり、「要素」ごとの文字量を決めたりする作業を執筆前に行うのが望ましい。「構造シート」を作るところからはじめてみよう。
なお参考文献では、ビギナーのうちは構造シートを手書きするよう勧めている。「いちいち主眼(本記事でいう「目的地」)と骨子(本記事でいう「経路」)を打ち込んでいるのがかったるくなって、いきなり文章を書き始めるスタイルに戻ってしまう人が多いため」だという。“手書きがよい”というよりは、“最初からPCで作業をするのがよくない”のかもしれない。
構造シートの書き方
参考文献で紹介されている具体的な書き方をみていこう。
[1]紙の最上部に「目的地」の欄を作る(空欄にしておく)。
[2]取材やリサーチで得られる「ネタ」を列挙する(箇条書きがオススメ)。
[3]「テーマ」や「コンセプト」をネタから考えて、「目的地」を設定する。
■補足〜「目的地」を決める手順〜
構造シートを作る手順のうち、「[3]目的地の設定」には時間がかかる。「ネタ」を次々に書き出す作業は、考えなくていいので比較的に簡単だ。しかし箇条書きにした「ネタ」から、「テーマ」を広く抽出し、さらに独自の「コンセプト」を短くまとめるのは簡単ではない。
[4]「目的地」を[1]の空欄に書き込む。
ここでは、限定感を「コンセプト」にして、「10名限定イベント」を押し出す「目的地」に設定した。
[5]「要素」を絞る
“「目的地」にたどり着く”ために必要な「ネタ」だけを「要素」として抽出する(不要な「ネタ」は削る)。
[6]「要素」の「順番」を決めていく。
原稿の主な「テーマ」である「トークショー」を冒頭に、「コンセプト」にした「10名限定」の条件を続ける。
[6‘]「要素」の「順番」を変えたくなったら、新しい紙に書き直す。
「要素」の「順番」を変えたくなるときもあるだろう。そのときは必ず別の紙に書き直すよう参考文献では勧めている。執筆に集中するため、構造シートはなるべくきれいな状態で仕上げたいのだ。
[7]主張したい「要素」に優先度を付ける。
どの「要素」を膨らませるか、「要素」ごとの文字量を決める作業でもある。ABC……で優先順位を決めてみよう。決めておくだけで執筆中に文量配分で悩む時間を減らせる。また優先順位を決めておけば、原稿の見どころが強調されるので、読みやすさにもつながる。
(※書く「順番」だけを決める[6]とは異なる作業なので注意したい。)
「要素」の「順番」(文章構造)を理解する
別記事で紹介したとおり、上の[6]の工程において「順番」を決めるのにはさまざまな考え方がある。構造シートを作るときの参考になるように、別記事で例示した三つを詳しく考察してみたい。
起承転結
起承転結は、前半の説明で読み手を引きつけつつ、後半のスタートで大きく“裏切って”見せどころを作る「順番」である。時間や思考の流れに沿って考えやすく、話に“オチ”が作れるため、文章でいえば物語やエッセイ、映像でいえばドラマや映画などでよく使われる「順番」だ。
ただしビジネス的な文章を書くときに起承転結はあまり推奨されていない。まず起承転結を成立させる(前半で読者をしっかり引きつける+後半でうまいオチを付ける)のは高度なテクニックが必要である。また後半で話が転回する=前半と後半で話が変わる、つまり前半が無駄になりやすいわけだ。しかも前半が無駄になる=何が伝えたいのか前半だけではわからない=伝えたいことが最後の最後までわからない点も、趣味の読書ならばともかく、ビジネスでは欠陥なのである。
そのため起承転結ではなく「起“転”承結」を推す考え方もある。「起」で話をはじめて早々に「転」で裏切りを作り、「転」の理由や具体例を「承」で説明して「結」で締めるのだ。たとえば「起」で一般論や常識を紹介したのち「転」でそれを否定する。そして「承」で理由や具体例を説明して「結」で締めるといった構成だ。このようにすれば「起承転結」の長所を残しつつ短所を補える。なお起転承結の考え方は、『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(古賀史健,ダイヤモンド社)で解説されているので、よければそちらも読んでみてほしい。
PREP法
PREP法とは、結論を最初にもってくる考え方だ。まず結論を書いたあとで、理由や具体例を説明し、最後にあらためて結論を書いて締める。“PREP”という名前も、以下のように書く内容の頭文字を並べて付けられた。
P…Point:結論
R…Reason:理由
E…Example:具体例
P…Point:結論
結論とは、書き手が1番伝えたい要素といえる。最初に結論を書くのは、「書き手は何がいいたいんだ?」という読み手の問いになるべく早く答えるためだ。何について語られているかが最初にわかれば、理由や具体例が続いたときに「結論を肉付けしているんだな」と読み手が理解しやすくなる。スピーチを聞くときでも、記事を読むときでも、前置きは短い方があなたも助かるはずだ。逆に、何ページ・何千文字も読み進めたのに、求めている情報が出てこないと時間の無駄なのである。
SEO
「検索して調べたがっている情報を、データをもとにしながら最初に書く」考え方を「SEO」と別記事では記載した。厳密にいえば、SEOとは「検索エンジン最適化」(Search Engine Optimization)であり、検索エンジンで何かを調べたときに表示されるページ(検索結果)で上位を狙うためのさまざまな対策の総称である。
さまざまなアプローチでSEOが行われる中で、「順番」に関していえば「検索して調べたがっている情報をなるべく早くユーザーに提供できる」のが評価につながるといわれている(厳密な査定ルールは、検索エンジンを提供するGoogleからは明示されていない)。そのためにキーワードプランナーなどの調査ツールを使い、ユーザーの検索行動に関するデータを取得したのち、「要素」の「順番」を客観的に決めていくのだ。
検索数が多いキーワードを調査し、その解説記事ですでに上記表示されている記事がどのような記述を行っているのかをリサーチしながら、“客観的な事実”を固めていく作業が発生する。PREP法と同じ「順番」になる場合もあるが、PREP法は主観的にも行えるのに対して、SEOはデータによって客観的に順番が決められる(主観が入る余地が基本的にはない)点を抑えておきたい。SEOによる構成の作り方は、専門業者が成り立つほど奥が深く解説に文字数が必要なため、詳しくは別の機会に譲りたい。
丁寧な準備で文章力を上げよう
構造シートを作るときの具体的な流れを今回考察した。参考文献にならってテクニック論を紹介したものの、量をこなさないとできるものもできるようにはならないという真理を忘れないようにしたい。書く力も一種の筋肉みたいなもので、トレーニングを継続的に・何度もしなければ強くならないのだ。執筆前の準備から、丁寧に、そして物量をこなして、わかりやすい文章を書く力の向上に今後も努めたい。
執筆:山野隼
編集:田中利知
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