文章を書く準備

優秀なライターは、文章の執筆以外に時間をかける。たとえば執筆に移る前はリサーチや構成案作成、執筆後は校正や校閲に時間をかけるのだ。執筆前に適切な方向性を固め、執筆中はひたすら直進を心がけつつ、執筆後に適切な方向に間違いなく進めたか・軌道修正がいらないかを確かめる。もし「直進」に時間がかかる場合、事前の準備ができていないのが原因だ。『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』(唐木元,株式会社インプレス)を参考に、執筆前の準備(今回はとくに構成)について考えていきたい。
文章の構造を知る
『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』(以下、新しい文章力の教室)では、わかりやすい文章を書くために文章の構造を把握する必要性を説いている。当文献で説明しているのは、下の図のような3階層の構造だ。
「事実→論理→言葉づかい」の順で階層を積み重ねて、文章は形成されるのが望ましい。上の図で面積が大きく下部にある「事実」がベースであり最も重要な階層だ。「論理(ロジック)」は、次に大きな比重を占める。一番上の「言葉づかい」は、なおざりにはできないものの、事実や論理には劣ると考えていいだろう。
「事実と論理」が文章の土台
■事実
「事実」は、文章を構築する材料の一つ一つである。記事の場合、取材した情報や数字などの題材そのものだ。たとえば人気漫画の最新巻発売を伝える記事ならば、発売日は重要な事実の一つだ。最新巻を待ち望んでいる読者のためにも、決して間違ってはならない。
いくら言葉巧みでも、数字の間違いや論旨の破綻に気付けないライターは現場に出せません。
上は、『新しい文章力の教室』の著者・唐木元氏の言葉だ。ライターの勉強をする過程で、現場の厳しさを筆者が痛感させられた1文である。特にルポルタージュやニュース記事は、事実を正確に伝えるのが目的である。また読者が求めている価値そのものおよび根幹が「事実」だといってもいい。フェイクニュースや“デマ”によってPV数を稼ぐ悪質な媒体や記事が出回る時代だ。故意でなくても間違いを発信すると、読者の信用を失うのはいうまでもない。
■論理
次に重要な階層は「論理(ロジック)」である。文章の材料になる事実を、わかりやすく・正しく伝えるための組み立て方だ。事実を集めても、伝える順番やパーツに不備があると本旨が伝わりにくくなる。あまりにも不備が大き過ぎると、誤って伝わる可能性も否定できない。わかりやすく説明するために、先の漫画を再び例に挙げてみよう。
連載10周年と通算10作目にあたる最新刊の発売日が、二つの「10」にちなんで「10月10日」に決まった。
上の文の冒頭を“二つの「10」にちなんで”から始めると考えてみてほしい。すると下のような文になる。
二つの「10」にちなんで、連載10周年と通算10作目にあたる最新刊の発売日が、「10月10日」に決まった。
上の文でいうところの“二つの「10」”とは一体何だろうか。「10周年」と「10作目」の“二つの「10」”であると全体を読めばわかるが、冒頭だけでは判断ができないため、読みづらさを感じた人もいるだろう。日本語の横書きは左から右に向かって展開され、左側ほど古い情報・右側ほど新しい情報が並んでいるといえる。そのため本来であれば右側に書かれなければならない「二つ」が左側に書かれたために生まれた違和感が読みづらさを生んだと考えられるだろう。もちろん「10周年」「10作目」のいずれかが冒頭に欠けても、「10」が“一つ”になり文章論理が破綻する。数字を使うときはもちろん、単語や文節の並び方だけでも論理が崩れる・伝わりにくくなる点に細心の注意を払いたい。
「構成」を考える
構成とは、わかりやすい文章を書くための設計図といってもいいだろう。執筆前に構成案を考えるのは基本中の基本だ。しかも構成が適切に考えられていないと、執筆に無理が出る。単語を表面的につなげて最後に句点を打ったとしても、解読不能で読むにたえない文字の羅列ができあがるだけだ。構成に入れるべき中身を一緒に考えてみよう。
構成は「目的地」と「経路」
結論からいうと、「目的地」と「経路」を決めるのが構成の役割である。それぞれ下記で詳しく説明しよう。
■目的地
まずは、文章の「目的地」を明確にするのが構成の大前提だ。目的地(=ゴール)を決めて書かなければ、よい文章として完成しないだけでなく、執筆中もどこを目指せばいいのかわからず無駄が増えてしまう。本ブログを例にするならば、「わかりやすい文章を書くための文章術」が「目的地」だといえる。より具体的に「テーマ」と「コンセプト」で説明すると、以下のような「目的地」を設定している。同じ「文章術」をテーマに多くの媒体が記事を制作しているが、コンセプトの違いで媒体ごとの特色が出ているはずだ。
テーマ:文章術 コンセプト:わかりやすい文章を書くための文章術
■経路
何について・どれから・どの程度書くかを執筆する前に決めておくと、迷わずに執筆を進められる。旅行でいうと、どこを・どのように進んで目的地を目指すのか、文字通り「経路」を事前に考えておくのが重要なのだ。本ブログをまた例にすると、下のような「経路」を想定している。
目的地:わかりやすい文章を書くための文章術 何について:『新しい文章力の教室』や『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版)など、多くの執筆者が評価している文献にて紹介されているメソッド どれから:照合し補完的に読めるように、参考文献と順序を合わせながら どの程度:1記事で1テーマになるように(1記事で2つ以上のテーマを説明しないように)
旅行では実際に経路の設定をしている人がおそらく大半であろう。にもかかわらず執筆の準備となると「経路」を考えずに書き始めてしまう人が少なくない。実際筆者にも、たった1文に10分以上もかけて言い回しを変えたり、執筆途中で大見出しまで書き直したりする無駄があった。経路を決めていないから途中のパーキングエリアや些細なスポットに寄り道をしてしまっていたのだ。
準備が「完読」につながる
『新しい文章力の教室』では、「いい文章=完読される文章」と定義している。事実・論理・言葉づかい、さらに構成がよくても最後まで読まれない文章には改善できる点があるのだ。どのようにすれば完読される文章が書けるようになるのか。ポイントを考察していきたい。
わかりやすい文章=完読される文章
わかりやすさは、完読される文章に必要な要素である。わかりやすい文章とは、準備がしっかりできて構造的・構成的にパーフェクトな文章といってもいいだろう。では“構造的・構成的にもパーフェクト”をどのように達成すればいいのかを考えてみたい。
■「最後までおいしいラーメン」をイメージする
ちょっと、ラーメンをイメージしてみてほしい。一口目から最後まで変わらずにおいしいラーメンに出会った経験はあるだろうか。途中で飽きてこしょうを振ったり、トッピングを追加したりせずとも、ずっとおいしい。しかも満腹になる前に食べきれるラーメンだ。
文章に置き換えると、冒頭から文末まで一気に読みたくなるものがイメージに近いだろう。スラスラ読めて、つまらないと感じない。意味も明瞭に読み取れる。しかも長過ぎず、最後まで読み切れてしまう文章。そのような文章にするために、構造と構成を考えるのがポイントといえる。
■「最後まで読まれる文章」のポイント
完読される文章は、読みたくなる条件を押さえている。たとえば以下のような点である。
- 求める内容や結論がすぐわかる
- 情報が新しく正確である
- 端的であり、過不足がない
- 論理的で理解しやすい
- たとえがわかりやすい
- リズムがいい
- ユーモアがある
読み手によっては、ほかにも読みやすいポイントがいくつか挙げられるだろう。SNSメディアの画像や動画で情報収集をする人も最近は増えている。そのような状況でテキストコンテンツを完読してもらうには、上に挙げた例を一つ一つ網羅して「見やすさ」にも配慮していくのが大切である。
書く前の準備が肝心
執筆に移る前の準備について今回紹介した。文章の構造を理解し、しっかり構成を練るよう心がけたい。具体的にいうと、「目的地と経路」を定め、それに沿って「事実」をそろえ、事実をわかりやすく・正しく伝えられる「論理」を組み立て、「言葉づかい」を検討しながら書く必要があるのだ。
始めたばかりでまだ副業としてライターをやっていたころは、納品スケジュールに遅れそうになり、勤務中の会社に有給休暇をとって記事を納品した経験が筆者にはある。今回紹介したような「準備」を知らなかったので、時間配分ができていなかったのだ。ライターの現場で得た経験と本ブログの参考文献を読むことで、適切な「準備」が効率的なライティングにつながると理解できた。
冒頭で説明したとおり、準備には構成案作成だけでなくリサーチも含まれる。今回は構成案作成について主に説明した。リサーチについては違う機会に譲りつつ、執筆だけに時間をかけるのではなく、執筆の前後にも時間を使う点もしくは執筆に時間をかけずに済ませる点も試行錯誤しながら準備と見直しに努めていきたい。
執筆:山野隼
編集:田中利知
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