読点「、」の使い方〜実践編〜

読点「、」の使い方〜実践編〜

読点を適切に使い分けるためには練習あるのみである。別記事で紹介した読点の二大原則・(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」と(2)「語順が逆の場合は読点をうつ」を使って例文をみながら実践をしていこう。

【注釈】
修飾部や修飾節などと本来は呼び分けるべきところを、広い意味での“かかる文節”を「修飾語」と本記事では総称している。

【検証】読点の二大原則

読点の打ち方

別記事でも紹介しているとおり、『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版)で著者の本多氏が提唱している読点の原則を基に、ネイビープロジェクトでは編集・執筆(読点の校正)を行っている。今回は、実際の文章で使われている読点を二大原則に当てはめて勉強していきたい。検証用にオンライン記事『日本沈没・ガンダム・AKIRA SFが映す戦後日本の世相』(日本経済新聞)から一部内容を引用した。

※学校の現代文の授業で行ったように文章から読み取れる解釈をまとめていくが、日経新聞の記者および文献の筆者である牧氏が意図していない解釈の可能性もある。その点は予めことわっておきたい。

SFが持つ想像力は、斬新なアイデアや大胆なシチュエーションをてこに、世界が直面する課題、人間が抱える本質的な問題を映しだす鏡といえます。現代日本SFが歩んできた道を文芸評論家の牧眞司さんに世相の移りかわりを参照しながらたどってもらいました。

日本のジャンルSFは輸入文化としてはじまった。第二次大戦後、1954年に創刊号のみを出して休刊した雑誌〈星雲〉(森の道社)など、いくつものSF出版企画が試みられたが、商業出版としてうまく軌道に乗ったのは、57年に立ちあがった叢書(そうしょ)《ハヤカワ・ファンタジイ》(のちに《ハヤカワ・SF・シリーズ》と改称)と、59年に創刊号が出た専門誌〈SFマガジン〉である。どちらも版元は早川書房だ。(中略)

併せて、新人作家の育成も急務だった。すでにショートショートの書き手として人気を博していた星新一は別格だが、〈SFマガジン〉を足がかりとして眉村卓、豊田有恒、小松左京、平井和正、光瀬龍、半村良、筒井康隆といった書き手が旺盛な活躍をはじめる。のちに日本SFの第一世代と呼ばれることになる作家たちだ。

上の記事から読点をピックアップして学んでいこう。

SFが持つ想像力は、斬新なアイデアや大胆なシチュエーションをてこに、世界が直面する課題、人間が抱える本質的な問題を映しだす鏡といえます。

句点までに三つの読点がある。それぞれの読点がどの原則に当たるか考えてみよう。

■一つ目の読点:「SFが持つ想像力は、」

原則(2)「語順が逆の場合は読点をうつ」が当てはまるだろう。「SFが持つ想像力は」は、文末の「(人間が抱える本質的な問題を映し出す)鏡といえます」にかかる修飾語である。従って本多氏のメソッドを当てはめれば、以下が“本来”の語順だ。

斬新なアイディアや大胆なシチュエーションをてこに、世界が直面する課題、 人間が抱える本質的な問題を映しだす鏡とSFが持つ想像力はいえます。

■二つ目の読点:「シチュエーションをてこに、」

原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」にあたるだろう。「斬新なアイデアや大胆なシュチュエーションをてこに」は、「映しだす」にかかる修飾語と考えられる。“てこの原理”でも馴染み深い「てこ」は、道具である。つまり「斬新なアイデアや大胆なシュチュエーション」を道具にして「映しだす」のだ。

■三つ目の読点:「世界が直面する課題、」

これは改善の余地があるかもしれない。この読点は「世界が直面する課題」と「人間が抱える本質的な問題」が並列関係であるのを示している。“課題”と“問題”が並び、いかにも並列という表現だ。本多氏のメソッドを基にするならば「・」や「=」が適当だ。もしくは要素が二つなので「や」や「と」に置き換えてもいいだろう。原則に当てはまらない読点は読点の本来の役割(二大原則)を侵害しかねないので、注意したい。

以上から、下のような関係が成り立っていると解釈できる。

読点の打ち方

読点がある次の文章に移ろう。

第二次大戦後、1954年に創刊号のみを出して休刊した雑誌〈星雲〉(森の道社)など、いくつものSF出版企画が試みられたが、商業出版としてうまく軌道に乗ったのは、57年に立ちあがった叢書(そうしょ)《ハヤカワ・ファンタジイ》(のちに《ハヤカワ・SF・シリーズ》と改称)と、59年に創刊号が出た専門誌〈SFマガジン〉である。

■一つ目の読点:「第二次大戦後、」

原則(2)「語順が逆の場合は読点をうつ」で解釈できる。本多氏のメソッドにならうと、“本来”は下のような語順だ。

1954年に創刊号のみを出して休刊した雑誌〈星雲〉(森の道社)など、 いくつものSF出版企画が第二次大戦後試みられたが、商業出版として……

もしくは下記のように並べてもいいだろう(以下の説明ではこちらを使用する)。

1954年に創刊号のみを出して休刊した雑誌〈星雲〉(森の道社)など、 いくつものSF出版企画が試みられたが、商業出版として第二次大戦後うまく軌道に乗ったのは……

■二つ目の読点:「雑誌〈星雲〉(森の道社)など、」

原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」である。読点の直後にある「いくつもの」と同じく「SF出版企画」にかかる修飾語だ。文の要素から考えても、「など」と「いくつもの」で“複数”を示している点でも類似性が見受けられる。

■三つ目の読点:「SF出版企画が試みられたが、」

三つ目の読点は、改善の余地があるかもしれない。まず「試みられたが」までが、あとに続く文章にかかる長い修飾語だと解釈できる。従って、原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」が適用できるだろう。もっと構造をわかりやすくするために文章を図式化してみた。

読点の打ち方

上のような構造をしているものの、「が、」を使った重文になっているため二つの単文に分けてもいいのではないだろうか。単文とは述語を一つだけ含む文章である。単文が複数重なった文を重文と呼ぶ。重文において、前の単文が長い修飾語になり、中間になる後ろの単文の前に読点がうたれる場合が多い。そのため原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」で解釈が可能なのだ。

だが読点をうたなくても、重文は単文に分解してもよい。そもそも一文が長すぎるのは嫌われるからだ。下記のような変更を提案したい。

1954年に創刊号のみを出して休刊した雑誌〈星雲〉(森の道社)など、 いくつものSF出版企画が試みられた。 しかし商業出版として第二次大戦後うまく軌道に乗ったのは……

【補足】

今回の「が、」は逆説の意味で使われている。しばし逆説の「が」の前に書かれている文章はなくても意味が通じるといわれるのをご存じの人もいるかもしれない。言い方を変えれば、「が」の前の文は削ってもいい(極論だが、「が」の前の文がなくても後に続く文が自然でなくてはならない)のだ。そのため、一つ目の読点のところで「第二次大戦後、」の位置を二つ提案したうち、重文のままで進めるのであれば、「軌道に乗った」に「第二次大戦後」がかかる後者の解釈をおすすめしたい(「が、」以後の文章だけで読んだときに「第二次大戦後」のあり・なしを比べてみてほしい)。

■四つ目の読点:「商業出版としてうまく軌道に乗ったのは、」

原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」で解釈が可能だ。「商業出版としてうまく軌道に乗ったのは」は「である」にかかる修飾語である。そして後に続く雑誌名で「である」までの距離が生まれてしまっているため、読点をうって境界線を示すのが適切だ。

■五つ目の読点:「(のちに《ハヤカワ・SF・シリーズ》と改称)と、」

「と、」の前にある文が長い。よって原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」で解釈できる。もしくは並列を表す「と」と役割が重なるため、読点は割愛してもいいかもしれない。

【練習】読点をうち直す

読点の打ち方

本来の役割を活かすためにも「読点が本当に必要か」あるいは「読点以外の文章記号で置き換えられないか」を検討する癖をつけよう。

中点との区別

文中で並列の内容を説明する場合に不用意に読点を使っていないだろうか。並列の言葉が三つ以上並ぶ場合は、中点「・」(ナカテン)を使用していくのをおすすめしたい。参考に、先ほどの日経新聞の記事をみてみよう。

すでにショートショートの書き手として人気を博していた星新一は別格だが、〈SFマガジン〉を足がかりとして眉村卓、豊田有恒、小松左京、平井和正、光瀬龍、半村良、筒井康隆といった書き手が旺盛な活躍をはじめる。のちに日本SFの第一世代と呼ばれることになる作家たちだ。

「眉村卓、」以降の人物名が並ぶ箇所は読点で区切られている。しかし読点の二大原則に当てはまる用法ではない。中点を使って修正してみよう。

……足がかりとして眉村卓・豊田有恒・小松左京・平井和正・光瀬龍・半村良・筒井康隆といった書き手が……

もう一つだけ例文を使って読点を中点に修正してみよう。

キャッチコピー大賞の行方は、コピーライティング歴20年の広告代理店社員と、販売実績10,000件、口コミ評価全国2位のフリーランス男性との一騎打ちになった。

「……販売実績10,000件、口コミ評価全国2位……」のところで違和感を抱いたのではないだろうか。「販売実績10,000件」が誰のプロフィールなのか一読だけではわかりにくい。以下のように読点を中点に変えるだけで誤読が減らせる(「フリーランス男性」にかかる修飾語だとわかる)だろう。

キャッチコピー大賞の行方は、コピーライティング歴20年の広告代理店社員と、販売実績10,000件・口コミ評価全国2位のフリーランス男性との一騎打ちになった。

禁止事例と不足事例

二大原則を意識しても、慣れていないとうってはならない場所に読点をうつことも少なくないだろう。反対になるべく間違いを無くすために、読点を控えすぎてあるべき場所に無いケースも今後経験するかもしれない。いずれも根絶するために間違いを擬似体験しておこう。

禁止事例

まずは禁止事例からみていこう。

 挨拶が終わり、こたつに脚を伸ばしながらリラックスしてみかんと、ホットミルクをごちそうになる。

二つの読点のうち、あってはならない読点はどちらだろうか。答えは「みかんと、」の方である。「と」を挟んで並列関係になっている「みかん」と「ホットミルク」を切り離しているからだ。もし「こたつに……」以降に読点をうつならばどこだろうか。考えた上で以下の結論を確認してほしい。

挨拶が終わり、こたつに脚を伸ばしながらリラックスして、みかんとホットミルクをごちそうになる。

移動した読点は原則(1)「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界線に読点をうつ」にあたる。なお「挨拶が終わり、」の読点は、無くてもよい読点ではあるが、思想の自由の読点としていいだろう。筆者の考えを読点で示す「思想の最小単位を示す自由な読点」である。読点以前の内容を強調したい場合などにも用いる。今回は仮に読点を抜けば、平仮名が並んで読みにくくなるので読点をうってみた。

挨拶が終わりこたつに脚を伸ばしながら……

 読点をうたない場合、「コタツ」や「炬燵」としてもいいだろう。思想の自由な読点をうつときは、読みやすさを意識して役割を阻害しないように使い分けたい。

不足事例

反対にあるべき読点が不足しているケースをみてみよう。読点が無いために読みにくい感覚を掴んでいこう。

親戚のおばさんが毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと力説していた。

一読すると、“毛だらけの親戚のおばさん”が頭に浮かんだのではないだろうか。読み進めると毛だらけなのはトリミングのスタッフさんだとわかる。熱心なスタッフさんの様子を親戚のおばさんが力説しているのだ。このままでは、毛だらけの人をおばさんからスタッフさんに訂正する工程が必要になる。必要な読点をうってみよう。

親戚のおばさんが、毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと力説していた。

「親戚のおばさんが」の後ろに読点を追加した。読みやすくなったのではないだろうか。しかし、ここまで本記事を読み進めた人は「毛だらけで、大汗をかいて、犬の……」にある読点が果たして必要なのか疑問に思うかもしれない。次の項目で原則から一歩踏み込んだ読点の使い方をみていこう。

文の読点・節の読点

読点の打ち方

読みやすさを意識して読点を取捨選択するために「文の読点を生かし、節の読点を除く」という指標がある。「文の読点」とは、構文上読みやすくするために必要な読点。「節の読点」とは、節の中で句を区切る場合などに“思想の自由”で書き手がうつ読点であり、極論すれば無くてもいい読点だ。例文を基に学んでいこう。

親戚のおばさんが、毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと力説していた。

先の例文である。おばさんが毛だらけの状態はかろうじて免れているが、やはり理解しにくい文章である。原因は、「毛だらけで、大汗をかいて、犬の……」の読点にある。せっかく「親戚のおばさんが、」と読点をうち「毛だらけ」以降の文と区別をしたのに、直後「毛だらけで、」の読点によって区別の役割が薄れてしまっているのだ。構造式にしてみよう。

読点の打ち方

大きく分けると、「親戚のおばさんが、」と「毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと」という二つの修飾語が「力説していた」にかかる構造である。「親戚のおばさんが、」の読点は、「文の読点」である。文の構造をわかりやすくする役割を果たしている。

「毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと」は述語を含む節であり、節の中で句を区切るためだけに「節の読点」を二つも使っている。結論、「毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと」の読点は今回のケースでは外した方がいい。「毛だらけで、大汗をかいて、犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと」の読点が、構文上重要な「親戚のおばさんが、」の読点の役割を侵害しているからだ。

親戚のおばさんが、毛だらけで大汗をかいて犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと力説していた。

もしくは別記事で解説したとおり、「長い修飾語は前に、短い修飾語は後に」を当てはめて、下記のように読点をなくしてもいいだろう。

毛だらけで大汗をかいて犬のトリミングをしているスタッフさんは偉いと親戚のおばさんが力説していた。

二大原則を用いれば読点を2種類に分類できる。分類する過程で読点が必要かそうでないかも判断しやすくなる。しかし原則に当てはめただけで必ず読みやすい文章になるとは限らない。文の読点と節の読点の区別ができれば、さらに読みやすい文章を書けるようになるだろう。

読点の使い方を習得するために

読点の打ち方

二大原則を基本に、思想の自由で読点をうつ際は本来の役割を侵害していないか注意しよう。中点などの文章記号に代用できる場合は積極的に置き換えることも検討したい。

また読点を利用せずとも修飾語の順序を入れ替えれば、伝わりやすくなる場合もある。文章を読む場合も・書く場合も、読点を意識して読み手にわかりやすい文章とは何かを考えていきたい。

執筆:山野隼
編集:田中利知