文章を書く準備〜具体的な手順〜

文章を書く準備〜具体的な手順〜

「執筆」は、文章作成の作業におけるほんの一部である。勉強(授業)における予習と復習のように、執筆の前後にもやるべき作業は多い。むしろ前後の作業の方が、執筆自体よりも原稿の質につながるといってもいいだろう。今回はとくに執筆前の「準備」について、『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』(唐木元,株式会社インプレス)を参考に、その手順を考察してみたい。

文章の「ネタ」を集める〜

 

執筆前の準備として、別記事で紹介した「構成作成」のほかに、「ネタ集め」が挙げられる。以下のように文章のネタを集めてみてほしい。

執筆内容ごとの「ネタ」の書き出し方

「ネタ」は、事実・情報・データ・気づき・印象・意見などさまざまである。そのため「ネタ集め」で大事なのは、文章の全体像や体裁は深く考えず、執筆予定の内容(「テーマ」以前に、何について執筆するかの大枠)に関する話をどんどん集めていくことだ。リサーチの過程で、気になった話を手当たり次第メモしておいてほしい。正しい・間違っている、使える・使えない…など、この段階ではとくに考えなくてかまわない。むしろ“「ネタ」がさまざま”と抽象的なのだから、何がよい「ネタ」なのかはこの段階で具体的に判断してもあまり意味がない(本当にないわけではないが……)。文章を書き慣れていない段階は、とにかく“どんどん”・“手当たり次第”を意識したい。

ただし「ネタ」を集めるとき、集める内容は考えなくてもいいが、見直しやすいようにメモを残すのには注意を払いたい。メモをきれいに残しておくと、執筆が容易になるだけでなく、「テーマ」や「コンセプト」の差別化にもつながる。

「ネタ」を書き出して整理する

つづいてメモした「ネタ」を整理してみよう。たとえば以下の“「ネタ」のもと”があったとする。下記の「ネタ」のもとは、さまざま「ネタ」が織り交ぜられて構成されている。(書き換えるにしては短いものの)下の「ネタ」のもとを私なりの「目的地」(解説は後述)を定めて書き換えてみたい。

デビューから通算10作目の漫画『ライター』が連載10周年を迎えた。新巻の発売記念イベント「原作者トークショー」を、10月10日午前10時から神保町の書店内で行う。

まずは上の「ネタ」のもとがどのような「ネタ」で構成されているかを考えてみる。文章を細かく分けて、なるべく一つの「ネタ」だけで整理してみよう。まずは、下のような書き出しができれば十分だろう。

・『ライター』という名の漫画がある。
・『ライター』が、作家のデビューから通算10作目に当たる。
・『ライター』が連載10周年を迎えた。
・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者のトークショーが行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの場所は、神保町の書店内だ。 など

5W1Hで「ネタ」の質を上げる

次は、「ネタ」の質を上げていこう。どのように行うかというと、集めた「ネタ」を「5W1H」に当てはめて不足がないかを確認していくのだ。そして取材によって不足が補えれば、文章の内容を濃くできる。早速、先ほど集めた「ネタ」を5W1Hに当てはめてみよう。

・『ライター』という名の漫画がある。→What
・『ライター』が、作家のデビューから通算10作目に当たる。→What・Who
・『ライター』が連載10周年を迎えた。→What
・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者のトークショーが行われる。→What・Who
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。→What・When
・『ライター』の新巻発売記念イベントの場所は、神保町の書店内だ。→What・Where

「作家のデビュー」と「原作者トークショー」に「Who(誰か)」があるのにひっかかった人もいるだろう。それぞれの意味を考えてみると、「〇〇さんが作家としてデビューして」と「原作者の〇〇さんがトークショーをする」と考えると「Who」の要素を含んでいるのだ。「〇〇さん」は誰なのか、具体的な名前があった方が濃さにつながるので取材項目として考えるのがいいだろう。

・『ライター』が、作家のデビューから通算10作目に当たる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者のトークショーが行われる。
+Who:佐藤太郎

作業を進めると、「Why(なぜ)」と「How(どのように)」が抜けているのがわかった。「Why(なぜ)」の問いは、取材した「ネタ」が“なぜ行われるのか”という目的や狙いを説明するために重要である。周辺にある補足的な情報ではなく、真相に迫る核心的な部分なので、「ネタ」の質を高めるためにぜひとも押さえたい要素だ。

また読者に必要な「How(どのように)」も考えてみよう。手法や苦労談を聞けると、「How」をまとめるヒントになる。たとえば「『ライター』が連載10周年を迎えた」では以下のような「How」が得られるとよい。

『ライター』が連載10周年を迎えた。
+How:アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら
(Why=「10年前に連載を開始したから」なので、ここではあまり意味がなさそうだ)

また「『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者のトークショーが行われる」にも着目してWhyとHowを考えてみよう。以下のような補完ができるとよい。

『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者のトークショーが行われる。
+Why:顔出ししてこなかった佐藤太郎さんが読者と直接触れ合うために
+How:応募ハガキを出した人から抽選で10名限定

[補足]レビューや感想も5W1Hで内容を濃くできる

補足を一つ。ここまで扱ってきたような事実ベースの文章でなくとも、映画のレビューや食事の感想などの主観を伝える文章でも「5W1H」は活用できる。自分で感じた思いや気づきを直感的に書き出した上で、同様の作業をして自分にインタビューをするイメージだ。直感的な主観にも根拠はある。言葉として具体化できていないだけだ。「5W1H」で引き出していこう。

・新作のピザがお店で1番おいしい。→What

上の例に、抜けているWhyを補ってみよう。

・モチモチ食感の新しい生地が使われているから。
・自分の好きな食材ばかりが使われているから。
・学生時代によく食べたお店の味に近いから。 など

「目的地」の設定

記事の土台になる「ネタ」がそろったら、いよいよ文章の構成を考えよう。何について書くか「目的地(=ゴール)」を設定するのだ。取材した「ネタ」を文章として組み立てる際に、優先順位をつけやすくなるメリットもある。

「コンセプト」で独自性を出す

「目的地」は、「テーマ」と「コンセプト」に分けられる。日本語でいうならば下のようになる。

テーマ:大枠の題材

コンセプト:切り口

文章の「目的地」を設定する上で、「コンセプト」で独自性を出せれば、たとえ「テーマ」が同じでも差別化をしやすくなる。たとえば本ブログは、以下のような「目的地」を設けている。

テーマ=文章術

コンセプト=わかりやすい文章を書くための文章術

「文章術」のブログや記事が数多くある中で、「わかりやすい文章を書くため」に必要なノウハウに焦点を当てて記事を書いている。違ういい方をすれば、すべての「文章術」の網羅的な解説は本ブログの目的に沿わず、「わかりやすり文章を書くため」に活用できない情報は極力削っているのだ。“こういう書き方もできる。ああいう書き方もできる……”との記事も作れなくはない。しかし網羅的な解説では、「どのように書くのがよいのか(どの書き方がベスト・ベターなのか)」が判断しにくく、「わかりやすい文章を書くための文章術を知りたい」とのニーズに的確に答えられないのではないだろうか。「テーマ」のレベルから「コンセプト」のレベルまで「目的地」を具体的にし記事の濃さを上げることで、“使える情報”の提供に当社は努めているのだ。

……話が脱線したので、元に戻りたい。先のネタを使って、「テーマ」と「コンセプト」を意識しながら、「目的地」を設定してみよう。

・『ライター』という名の漫画がある。
・『ライター』が、作家・佐藤太郎さんのデビューから通算10作目に当たる。
・『ライター』が、アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら、連載10周年を迎えた。
・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの場所は、神保町の書店内だ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、顔出ししてこなかった原作者・佐藤太郎さんが読者と直接触れ合うために行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、応募ハガキを出した人から抽選で10名限定で参加できる。

上の「ネタ」の場合、「テーマ」は下のような例が考えられる。

・漫画『ライター』のイベント開催

つづいて「コンセプト」を考えてみよう。さまざまな「コンセプト」が考えられる中で、三つほど例を挙げてみた。書き手のセンスが問われる部分で、どこに・どこまでフォーカスを当てるかを考えてみよう。

・漫画『ライター』のイベント、さまざまな10を意識して開催。
・漫画『ライター』のイベント、原作者・佐藤太郎さんが登壇予定。
・漫画『ライター』、10名限定のイベントを新巻発売記念で開催。 など

「経路」を定める

 

「目的地」(「テーマ」や「コンセプト」)が定まったら、そこまでの「経路」を考えよう。具体的には、“何を(要素)・どれから(順番)・どのくらい(軽重)書くか”を決めていく作業だ。なお「経路」を考えるときおすすめしたい順番がある。「何を(要素)→どれから(順番)→どのくらい(軽重)」の順序だ。違う順番にすると、「目的地」への到着に無駄な時間がかかったり、到着そのものが難しくなったりするので注意したい。

要素〜何を〜

そもそも「要素」とは、「目的地」に合わせて収集した「ネタ」を取捨選択してえりすぐったものである。違ういい方をすれば、考え過ぎず自由に取材やリサーチで集めてきた「ネタ」から、必要なものを精査し選んで残ったのが「要素」といってもいい。取材力が向上して、「ネタ集め」をしながら「要素」の取捨選択も同時にできるようになると最高だ。

・『ライター』という名の漫画がある。
・『ライター』が、作家・佐藤太郎さんのデビューから通算10作目に当たる。
・『ライター』が、アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら、連載10周年を迎えた。
・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの場所は、神保町の書店内だ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、顔出ししてこなかった原作者・佐藤太郎さんが読者と直接触れ合うために行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、応募ハガキを出した人から抽選で10名限定で参加できる。

ここまで、「目的地」を決めて記事の「要素」になりうる「ネタ」を上のとおりピックアップ・ブラッシュアップしてきた。そして今回は、先に例示した「コンセプト」のうち「漫画『ライター』のイベント、さまざまな10を意識して開催」をもとに「要素」を考えてみるとしよう。すると下のものだけを使うのがいいのではないだろうか。

・『ライター』という名の漫画がある。
・『ライター』が、作家・佐藤太郎さんのデビューから通算10作目に当たる。
・『ライター』が、アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら、連載10周年を迎えた。
・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、応募ハガキを出した人から抽選で10名限定で参加できる。

残した「ネタ」は「コンセプト」に合致しているものであり、削った以下の二つは合致しない、もしくはコンセプトに沿って文章を作る上で“なくてもいいもの”といえる。とくにイベントの場所については、参加者が限られている=抽選で外れた人は来ない方がいいため、「10名」にだけあとから伝えた方がよいだろう。

・『ライター』の新巻発売記念イベントの場所は、神保町の書店内だ。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、顔出ししてこなかった原作者・佐藤太郎さんが読者と直接触れ合うために行われる。

順番〜どれから〜

字面のとおり“「要素」をどれから並べれば、読者が情報を理解しやすくなるか”を考えるのが「順番(どれから)」の作業だ。下記に例を三つ挙げたとおりさまざまな考え方があり、文章の目的によって臨機応変に考えなければならないポイントといえる。

<書き手の視点から>
・起承転結を意識する ※起転承結を勧める考え方もある
・「PREP法」に従って結論から書く

<読み手の視点から>
・検索して調べたがっている情報を、データをもとにしながら最初に書く(SEO) など

今回は「コンセプト」に沿って考えてきたので、同様に以下のような「順序」を考えてみた。

・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、応募ハガキを出した人から抽選で10名限定で参加できる。
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。
・『ライター』という名の漫画がある。
・『ライター』が、作家・佐藤太郎さんのデビューから通算10作目に当たる。
・『ライター』が、アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら、連載10周年を迎えた。

「コンセプト」の「さまざまな10を意識」したとき、「『ライター』という名の漫画がある」以外は「10」が入っている「ネタ」だけに絞られている。そのため「10」にまつわる説明をなるべく文章の前半で、読者の熱量が高いうちに行おうと考えた。また上の三つは「『ライター』の新巻発売記念イベント」、下の三つは「『ライター』」を主語にしている。「コンセプト」も「漫画『ライター』のイベント、さまざまな10を意識して開催」と、“イベント”を主語にしているため、関連する三つをまとめて前半にもってくるのがいいだろうと考えた。

軽重〜どのくらい〜

「要素」ごとの文章量に直結するのが「軽重(どのくらい)」の設定だ。どの「要素」に重きを置くかについての判断にも、「目的地」に従って考えていくと進めやすい。文章を厚くしたい順にA→B→Cなどとレベル分けしていくのが具体的な作業だ。これまでと同じ例で「軽重」を以下のように振り分けてみた。

・『ライター』の新巻発売記念イベントで原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。……B
・『ライター』の新巻発売記念イベントは、応募ハガキを出した人から抽選で10名限定で参加できる。……A
・『ライター』の新巻発売記念イベントの日時は、10月10日午前10時からだ。……A
・『ライター』という名の漫画がある。……D
・『ライター』が、作家・佐藤太郎さんのデビューから通算10作目に当たる。……C
・『ライター』が、アニメ化によって幅広い層からの支持を集めながら、連載10周年を迎えた。……C

「コンセプト」に直結する「ネタ」をAとBにして重きを置いた。むしろ『ライター』は、10年も連載されてイベントまで行われる(設定の)ため、読者がすでに知っていると想定できる要素はCやDにしている。逆に読者にとって新情報になるのがAとBにした要素だろう。以上のような流れで「軽重」を決めていきたい。

そして最終的に書くのは以下のような文章だろう。考え方によって違いが出るため、あくまで一例として読んでみてほしい。

『ライター』の新巻発売記念イベントで、原作者・佐藤太郎さんのトークショーが行われる。当イベントには、応募ハガキを出した人から抽選で10名が限定で参加できる。日時は、10月10日午前10時からの予定だ。そもそも『ライター』とは、佐藤氏のデビューから通算10作目に当たる漫画である。しかも『ライター』は連載10周年を迎えた。以上のとおり、本文に登場したさまざまな「10」を意識してイベントの準備が進んでいるわけだ。

準備は具体的かつ丁寧に

執筆に移る準備のうち、具体的な手順を今回は考察した。紹介したように「ネタ集め」をし、「目的地」や「経路」の設定がしっかりできれば、無駄や迷いがなく執筆ができるはずだ。その結果として記事の質を向上させられる。逆に無駄や迷いがある場合は、事前の準備ができていないと反省した方がいいだろう。もちろん準備不足のまま無理やり作った原稿に、質を考える意味もない。具体的かつ丁寧な準備をいつも心がけたい。

執筆:山野隼
編集:田中利知