わかりやすい文章を構成する段落とは

段落とは、同じ内容で区切られた文章のまとまりや、同じ思想表現の文章の塊を指す言葉だ。そのため段落を変えるのは、文章の内容を変えるときだけに限られる。また同じ内容で、なおかつわかりやすい文章の塊で分けられていなければ、適切な段落分けとはいえない。それほど段落分けとは慎重さが求められる作業なのだ。段落の使い方を本記事で一緒に学び、読みやすい文章作りに活用していこう。
【注釈】
原稿用紙を使った手書きの段落分けではなく、Webライティングの段落分けを紹介する記事である点を念頭に置いて読んでほしい。
段落の役割
段落の役割は、同じ内容で文章をひとまとまりに区切り、文章全体の論理や構成を明快にすることである。一定量の文字数でまとめられるブログ記事などでは、適切な段落分けによって書き手の意図を適切に読み手に伝える効果が期待できる。
なお本ブログも、伝えたい内容を細分化し、見出しごとに分けている。これも段落分けといっていいだろう。読みやすさのために段落分けを行うのはもちろん、Webの場合はとくに、入稿の際に見出しタグ(hタグ)を設定することが検索されたときの上位表示(SEO)につながる。SEO対策については別の機会で改めて紹介するとして、まずは文章全体における「段落」の立ち位置(定義)を確認していこう。
文章全体における段落
文章は、大きく分けると[章→段落→文]の順序で構成される。それぞれの特徴を下にまとめた(より小さく分けると「部」「節」「項」「目」「単語」などの分け方も存在する。本記事では言及しないので、詳しく知りたい人は自身で調べてみてほしい)。
文章:いくつかの文の集合体。記事や作文なども文章と呼べる。
章(チャプター):記事や作文の中で、最も大きな思想や内容の括り。
段落(パラグラフ):文章や章の中で、同じ意味や内容ごとに改行して分けたまとまり。
文(センテンス):段落を句点で区切った最初の思想のまとまり。
本ブログの別記事を例にして段落に当たる部分を確認してみよう。目次のところをスクリーンショットして下に入れてみたので見てほしい。
引用元:http://blog.navy-p.com/2022/10/20/how-to-use-sentence-symbols-periods-midpoints-parentheses/
全体は、「記事」や「文章」と呼べる。つづいて1.〜5.でナンバリングされた項目が「章」にあたる。そして3.章『括弧(カッコ)の使い方の代表例』の配下にある『3 1.会話表現』から『3 5.ヒゲカッコ「“”」』までの中身それぞれが、3.章の段落(パラグラフ)に該当する項目だ。「括弧の使い方」としてカテゴリー(大きなくくり)は同じでも、異なる括弧の使い方を個別で説明している。章レベルでは同じでも、段落レベルでは違うので段落分けをするのが適切なのだ。段落分けの作業によって、上の目次のように記事の構成がわかりやすくなる点にも注目したい。
段落分けと改行の違い
そもそも段落分けと改行をしっかり区別できているだろうか。段落分けと改行の違いは下のとおりだ。役割が異なるので、今後は混同を避けて使い分けよう。
段落:文章を同じ内容のまとまりで区切ること。
改行:意味や内容にかかわらず文を区切り、行を変えること。
※編集者は、段落を分けるまではいかないが少し文章に区切りをいれたい場合に改行を入れるようにしている。“弱段落分け”といった感じだろうか。
■補足:Word(ワード)の段落と行の違い
ワードなどのライティング用ソフトにおける「段落」と「行」の違いにも触れておこう。ワードにおける「行」は、内容や区切りなどに関係なく、横に並んだ文字列の1行分を指す。つまり句点で区切られる文の終わりではないのだ。本質的な段落の意味や役割がわかっていても、段落と行のワード特有の呼び方を誤認していればミスが起きかねない。段落と行の違いがわかるよう、別記事から一部を抜粋し再確認しておこう。
引用元:http://blog.navy-p.com/2022/10/20/how-to-use-sentence-symbols-periods-midpoints-parentheses/
念のため、ワードにおける段落と改行の違いを例を示しながら確認しておこう。段落は、大きな四角で囲った「段落(1)」と「段落(2)」の部分である。行は、1番小さい四角で囲った部分だ。説明したとおり、句点で文が区切れていなくても、ワードにおける「行」とは上のような横1文を指す。間違いのないように覚えておきたい。
読みやすい段落の分け方
段落分けを適切に行うためには、執筆前の構成作りが大切である。文章全体の構成を決めずに書き始めると、段落分けがでたらめになりやすいからだ。事前に構成を編集者と擦り合わせしてから本記事も書き始めている。構成は執筆の筋道であり、記事全体で何について書いているかの確認を執筆中に行うための設計図だ。文章が単に長くなったから段落分けをするような、内容に紐づく根拠がない非論理的な改行を避けるためにも、構成は執筆前に作るのが鉄則といっていいだろう。
それでは、先の例文を基に段落(1)と(2)をなぜ段落分けをしているのか考えてみよう。
段落(1)の内容は、「ルールに則り正しく句点を打ったケース」の例文と解説だ。つづいて段落(2)の冒頭で「句点の使い方を間違えたケース」が提示されている。そして「実際に間違いのある例文」と「間違えたケースの説明」が続く。注意が必要なのは“(2)の冒頭の一文を(1)に入れてはいけないのか”だ。
仮に、段落(2)の冒頭「なお仮に句点の使い方を……」を段落(1)に含めると考えてみよう。すると“間違ったケースの新情報”が段落(1)の締めになってしまった。間違ったケースの情報を最後に入れると、「ルールに則り正しく句点を打ったケース」のまとめとしての役割が削がれてしまう。違う表現をすれば、話がまとまっていないのだ。
以上のような理由から、上の画像にあるような段落分けを行った。どこまでが同じ内容かを常に意識し、読みやすい段落分けをできるように努めていきたい。
ここで余談を一つ。適切な段落分けにつながる長編論文の作り方の一例を紹介したい(行の始めで段落を分けた理由は、Webライティングからは少し脱線するからだ)。ネイビープロジェクトが参考文献にしている『日本語の作文技術』(本多勝一,朝日新聞出版)で紹介されているルポルタージュの作り方だ。著者の本多氏は、取材後の執筆前に以下の作業をするという。
(1) 章[大項目]の構築 :カードなどを使って、目次を作るつもりで内容に沿った章を立てる。 (2) (1)で作ったカードに具体的な内容をメモ :章で書く内容を具体的に書き出す。 (3) カード制作後、内容が足らないと感じたら再取材
(2)で章の具体的な内容を書き出す際に、カテゴリー分けも本多氏は行っていると思われる。むしろ(2)以降のカテゴリー分けが正確な段落を構成するための大切な作業といえる。なお本多氏の方法を筆者が採用するなら、(2)の次に以下の手順を追加したい。
(2’) 書き出したメモを内容ごとに分類する
(2’)の作業を丁寧に行えば、正確な段落の土台作りにもなるだろう。「(1) 章[大項目]の構築」に対して(2’)は、「中項目の構築」といっていいかもしれない。
■参考:構成・段落分けにおすすめツール「マインドマップ」
本多氏のようにカード(紙)を使ってもいいが、段落分けや記事の構成作業に便利なオンラインツールが普及している。ネイビープロジェクトで使っているのは「マインドマップ」だ。項目ごとにカードを作成していく作業がPCの画面上でできるツールである。記事のタイトル・チャプター・段落分け以降の内容まで、データや情報の整理に役立つ。今回事前に作成したマインドマップが下のものだ。
マインドマップを使うまで、参考文献の情報をワードにメモをしたり、文献にペンで書き込みをしたり筆者はしていた。しかしワードでは、内容をジャンル分けするために文字サイズを変更したり色を付けたりと、作業量が多く非効率的だった。マインドマップを使い始めてからは、情報整理の時間が短縮でき、さらに視覚的に構成をイメージしやすくなっている。おかげで執筆は大変捗るようになった。
マインドマップは、各社のサービスやプランによって制作できるマップの数やストレージ容量に違いがある。ネイビープロジェクトでは「MindMeister」をメインで使用している。無料で使えるプランもあるが、使用頻度に合わせて有料プランを検討してもいいだろう。
Webライティング・ブログ記事での字下げと段落分け
Webライティングの際、ネイビープロジェクトで注意している字下げと段落分けのポイントについても触れておこう。
■Webライティングにおける字下げ
Webライティングの際、段落分けの後に「字下げ」をしないのが一般的である。字下げとは、行頭に空白を設けて、ほかの行よりも文の開始位置を下げる表記だ。下の例のとおりである。
字下げについて説明しよう。……
このように、字下げとは……
国語の授業で原稿用紙を使ったシーンをイメージしてもらうとわかりやすい。字下げの目的は、区切った位置を見やすくし内容の切れ目を明確にすることである。しかし字下げに頼らずとも、Webの原稿は改行や段落分けを行えば簡単に文の切れ目を明確にできる。紙のように、文字数や記述欄に制限があるわけではないため、改行や段落分けを多用しやすいのもWebの特徴だ。Webライティングをする際には、字下げではなく、段落分けを的確に使っていくことを意識したい。
■Webライティングにおける段落分け
引用元:http://blog.navy-p.com/2022/10/20/how-to-use-sentence-symbols-periods-midpoints-parentheses/
すでに紹介したとおり、Webライティングでは適度な段落分けが読みやすさにつながるといわれている。Webライティングでは字下げをせずに、適度な量を書いたら段落分けをして読みやすさを担保するのが一般的と上で紹介した。
では、「適度な量」とはどの程度だろうか。実は「適度な量」については諸説あり、「2〜4文程度」とする人や「5〜6行」とする人もいる。明確な決まりがあるわけではないものの、適度に段落を分けようといわれているのだ。しかし本多氏は、“文章が長くなったから”との理由で安易に行われる改行や段落分けに異を唱えている。やはり役割を理解した上で、すでに説明してきたように明確な意図をもって改行や段落分けは行うべきだと本多氏は説く。
どちらが絶対的に正しいわけではない。本多氏のメソッドは文章術として一流ではあるものの、Webの場合を想定して書かれたものではない。『日本語の作文技術』が書かれたのは1982年ごろだからだ。そのため、「文章を同じ内容のまとまりで区切ること」をまずは意識しながらも「Webライティングは適度に段落分けをする」点にも気を配り、適度に段落分けができる文章になるように構成作りや執筆を行うのがいいのではないだろうか。
段落分けの練習をしてみよう
論理的でわかりやすい段落分けをするためには、日頃から意識して執筆や見直しをする必要がある。例文を使ってここでも練習してみよう。
不要な段落分け
下の例文で無駄な段落分けがないかを考えてみよう。なお段落分けをした文末には(Ⅰ)からナンバリングをしている。
ジョニー・デップ ハリウッドスター・ ・ が主演する映画。 アンジェリーナ・ジョリー(Ⅰ)
固有名詞と並列・同格に分けて分解してみた。「ハリウッドスター」のあとが同格、「ジョニー・デップ」と「アンジェリーナ・ジョリー」の間にあるのが並列の中点であるのを上の図で示している。(Ⅱ)
ジョニー・デップもアンジェリーナ・ジョリーも、ハリウッドスターであり、映画に主演しているのが伝わるだろうか。(Ⅲ)また読みやすくするには、中点を使わず「ハリウッドスターであるジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーが主演する映画」とする方法もある。「と」や「や」を使えば二つ以上の並列はクリアできる。
引用元:http://blog.navy-p.com/2022/10/20/how-to-use-sentence-symbols-periods-midpoints-parentheses/
結論、(Ⅰ)の改行以外はすべて不要だ。(Ⅰ)は、例文の直後なので見やすさの観点から改行をしている。それ以外は、例文に紐づいた同じ内容の説明なので、文章として同じまとまりだ。そのため段落分けは不要なのである。(Ⅱ)は1行スペースを挟まずに単に改行をしているが、改行によって特段見やすくなっているとも考えにくい。(Ⅲ)は、少し悩むかもしれない。「また読みやすく…」で始まる最後の3行は、それ以前に説明のある「中点の代用法」なのであくまで補足だ。従って、わざわざ段落分けをするほど別の話を展開しているわけではないと判断できる(仮に最後の3行で紹介されている「と」や「や」について、個別に掘り下げていく文章が続く場合は段落を分けてもいいだろう)。
必要な段落分け
次に必要な段落分けが抜けている文章をみてみよう。下の例文に振った(a)から(e)のうち、どこで段落分けをすると読みやすくなるだろうか。
「漢字とカナは読みやすさで使い分ける」
今回紹介したルールを活用しつつも、記事を書く者として、媒体の編集者や制作の依頼主と表記を相談することを大事にしていきたい。(a)いくらメソッドを使っても、書き手の主観で表記はブレて読みにくさを生みかねないからだ。(b)本記事の筆者と編集者は、すでに紹介した『記者ハンドブック』(共同通信社)を校正に使用している。(c)原稿制作の現場では、記者ハンドブックを表記の確認用に採用している媒体や企業が多いためだ。まるで“ライターの辞書”のような書籍である。絶対的なルールではないが、外国語のカナ表記以外も網羅している便利な書籍なので一冊持っておくといいだろう。(d)今回何度も書いてきたとおり、漢字とカナをうまく使えば、文章を視覚的に読みやすくできる。一文ずつで文字の並びが変わるため、書くときは常に漢字かカナかの選択に迫られる事情も伝わっただろう。(e)今回紹介したような基本を押さえつつ、読みやすさを常に意識しながら漢字とカナは選んでいきたい。
引用元:http://blog.navy-p.com/2022/12/09/how-to-use-kanji-and-kana/
(b)と(d)で段落分けをした方が読みやすいと筆者は考える。(b)までの内容は「媒体の編集者や制作の依頼主と表記を相談すること」の大切さを主張し、つづいて「メソッドだけに頼るリスク」を補足している。(b)から(d)までの内容は、『記者ハンドブック』の紹介であり、本筋から派生した余談のようなものだ。つづく(d)より後は、話を本題に戻して、全体のまとめをする内容である。以上のような判断で、段落分けを行った。
段落で作文技術を向上させよう
文章の論理を明確にする上で段落分けは便利である。読み手が内容を整理でき、文章が読みやすくなるのも段落によるメリットであり、使い方を誤ればデメリットにもつながりかねない。Web媒体がライターの主戦場としてメジャーになってきた状況を鑑みると、見やすさを意識しつつ、段落ごとに内容をまとめる力がよりも求められるようになったといえるだろう。Webライティングにおける段落分けや改行は、今後の文章作成でも注意していきたい。
執筆:山野隼
編集:田中利知
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